236号-2017.3.25

[ 2017.3.25. ]

236号-2017.3.25

ある担当社員の物件の募集に考えさせられるところがあった。
それは築18年の物件で、1階と2階の計2室4ヶ月の長期空室物件があった。
1階81,000円を77,000円で契約した。2階の賃料は75,000円でずっと募集していた。1階が決まったことでバランスが崩れた為、急遽3,000円アップの78,000円にする事が賃貸管理会社の仕事である。普段そこまでの管理を上司はしていないと思われ、そのままで募集していたと思う。勿論、部下もそこまで貸主の利益や上下のバランスを考えずに無視していたか、何も考えなかったのではないかという点である。

当社に限らず「空室会議」というものがあるが、そこでの主要な確認事項は空室期間と反響、募集方法の再点検、空室の賃貸条件見直しで、それも週一回である。

その場でネットを変更するのは稀で翌日に指示するのが殆どであろう。
2~3日のタイムラグが発生する。手段である空室を埋めるのが目的となっており、貸主のキャッシュフローの最大化という目的が忘れられている。しかも一日いくらの損益か!が欠落している。

こういう期日管理ができないと、今後民泊、ウイークリーマンションと瞬時に賃料や条件変更を求められる多様な貸し方を要求される状況では生き残っていけない。
賃料もシーズン期は高く、オフは安いことも当然起こる。賃料は固定的なものではなく季節により変動するものなのだ。そして時期が来たら即座に値上げ・値下げするのが期日管理をしている事になる。
賃貸管理とは滞納とかクレーム対応のハード面だけではない。このようなソフト面での対応如何が管理会社に求められる。
貸主のキャッシュフローをいつも念頭に入れる動きが必要になる。稼働率が重要な指標になるのだ。当社ではサブリースを開始して10年になるが「期日管理」という点では、まだまだ理想には程遠いしその意識も疎い。

空室保証を取扱うサブリース課とは、一日単位で損益を考えなくてはいけない部署である。「日銭感覚」が基本である。長期空室はその点から弁解の余地はない。しれっと「〇ヶ月空いています」という事自体が、最早失格である。

 空室対策の積み重ねを実施している事が、期日管理ができていると言い、行動管理、強いては利益管理がきちんとできている事になるのだ。空室になったら対応を考えるという事ではなく、入居中から退去を予想して個別に対策を練っておく事が必要なのだ。

退去後の原状回復工事の内容やリノベの範囲、再募集賃料も既入居者とのバランス、市場との兼ね合い、競合物件の動向等の把握も必要条件となる。そこから貸主との妥協点を予想して「想定賃貸条件」を予め決めておくことが十分条件となる。必要にして十分条件を充足して初めて「プロの管理会社」といえるのであり、顧客からの信用も得ることができる。退去通知があれば即アクションを起こさなければいけない。期日は原則30日だ。たったそれだけで14日は短縮できる。賃料の半月分が貸主に加算される。ここまでできて賃貸管理会社を標榜することができるのだ。

当社も含めて「地域密着」を標榜する会社が多いが「どれだけ地域情報と市場動向、顧客情報」を認知共有しているか疑わしい。こと、賃貸管理に関しては大手と中小の差はない。強いて言えば情報量の差という事になるが、ネット情報が個人でも発信されるようになってからは、その情報力の差も余りなくなってきた。
一部顧客のブランド信仰は忌避しがたいが、実質的には「大手=ブランド=情報量=営業力」の図式は過去のものとなっている。つまり、仲介力を含め賃貸管理については明確な差別化が難しくなっている。となると、地域情報量、きめ細かい対応力という「アナログ的人間力」に左右されることになる。

先の例でいえば、今までに、このような事例が在ったのにもかかわらず見過ごしていたならば大いに反省して欲しいものだ。こう言うとそれは「サブリースの事だという馬鹿は当社にも流石にいない」と思うが、老婆心ながら全部門の事だと強いて言っておきたい。
「頭でわかっていても実際には殆どできていないのが実情である」この違いが、大きな差となるということを銘記して欲しい。

更に、空室対策にあっても「思考停止状態」が恒常化している。空室の最大理由は「物件力」と「募集力」だが、空室の真因を探すこともなく「賃料下げ」「広告費支払い」だけで済ましている。
担当者の「汗」がない。「頭で汗をかくか、体で汗をかくか」が基本だがそれがない。毎日、案内件数、反響数をチェックしその原因を探り対策をしているか!「現場は動いている!」という意識がない、決まるまで平均1~2回の現場確認では話にならない。自ら現場でどうすれば入居させられるか、考えているか!?雨の日、風の日、夜に時間を変えて現場に行っているか!?なのだ。更に他社で決まっても、悔しい思いもなければ営業マン失格だ! 悔し涙もない去勢された社員では顧客からも評価されないだろう!大切な資産を預けているのに、ふがいないとのお怒りもある。

賃貸市場は供給過多から価格勝負の様相を呈しており、仲介手数料だけでなく広告費として1~2ヶ月の支払いが常態化している。どこでも賃貸仲介だけでは赤字経営のところが多く、首都圏のある大手仲介会社も新規出店をストップしたし、ある準大手は倒産一歩手前と噂されている。
これからは、雨後の筍のように出てきた賃貸専業不動産会社も撤退や廃業が多くなるだろう。売り上げの割には費用が掛かりすぎるという事である。
ネットによるアクセスが90%になり、物件選定も2~3件に絞り、不動産会社に行くのも1~2社という状況では、駅前立地も不要であり社員のITスキル次第で仲介業務が成り立つ。
物件情報をネット上でやり取りして希望の物件を絞り後は不動産会社に来店して確認するだけである。多店舗展開も不要で社員も多く抱える必要がない。従来とはビジネスモデルが変わってきたのだ。

近年、好立地という神奈川県内でも空室が目立ち始めている。リクルートの統計でも首都圏内で一番空室率が高いのは何と!神奈川県で33.6%の高率である。その原因はハウスメーカーを始めとする建築会社が「相続税対策」で賃貸物件の受注に躍起になっているからだ。その決算報告でも集合住宅の受注が相当寄与しているのがわかる。

いうまでもなく「相続税対策」は借り入れを増やすことで負債が生じる為、相続財産から控除が可能だ。しかし、その相続人がその負債を引き継ぎ支払わなくてはならない。その原資である賃料収入が返済完了まで確保できればの話だが、人口減少化の市場では賃料の下落は間違いがない。
例え建築会社が賃料保証するといっても、更新時に数千万もする高額なリフォーム工事が条件とか、親会社の建築受注が取れなくなれば間違いなく保証はなくなるし、最悪の場合その会社を倒産させればその義務もなくなる。

脅かすようだが20年前にも準大手の倒産が数例あった。賃料保証スキームが同じなので親会社の建築受注が確保できる前提であれば成り立つ。しかし以前と比べ格段に市場は厳しくなっているので予想は一層厳しい。つまり賃貸経営のリスクは、以前にも増してハイリスクという事になる。最近は税効果だけの「相続税対策」ではなく、遺言を中心とした「相続対策」に向けたセミナー等も出ている。

「場合によっては建築を中止するアドバイスも必要だ!」このような背景から、ますます当社のような賃貸管理会社の重要性は増している。
空室を埋めるというだけでなく、顧客の相続対策におけるセカンドオピニオンの立ち位置だ。
その為、当社では顧客の相談にワンストップで応じられるように、土地活用、資産組み換え、相続対策を一気通貫で行えるように、一級建築士3名、不動産鑑定士1名、税理士1名を抱えている。
準公的資格である「相続支援コンサルタント」も6名いるので、お客さまの立場に立ったご提案ができるものと考えている。不動産の「ホームドクター」の存在こそ賃貸管理会社のあるべき将来像だろう。

社長  三戸部 啓之