346号-2026.7

[ 2026.7.1. ]

346号-2026.7

 時間も労力も使っている。改善も増やしている!しかし、成果がついてこない! こんな悩みを多く経験しているはずだ。多くの場合、やっていること自体は間違っていないなら猶更だ。ただ、成果が出る人は「やり方」より先に、「見る順番」を整えているからと言う人がいる。では、本当に何が違うのか?ユニクロの柳井正氏がその差を一言で表した例えがある。それが「ゾウの話」だ。柳井氏は、成果の差はスキルよりも「何を見るか(どう見るか)」で決まると言っている。その「見方」とは何か。柳井氏はこう言っている。「ゾウの尻尾だけを見ていてはゾウと想像できない。鼻だけを見ても想像できない。全体の姿があって、ゾウというものがあるのです」人は意外と視野に入る事象を元に判断している。往々にして近視眼的と言われることもあるが、多方面から見て判断を下すことが少ない。インパクトのある事象でも遭遇すればそれは後の判断を歪曲することもある。

 この話は、「盲人と象」として知られる有名な話でもある。そこでの話を要約すると、ある村に象を見たことがない盲人たちがいた。彼らは象を理解する為に、実際に触ってみることにした。足を触った人は「象は太い柱のようだ」という。鼻を触った人は「象は太い蛇のようだ」という。耳を触った人は「象は大きなウチワのようだ」という。尻尾を触った人は「象は細い縄のようだ」という。胴体を触った人は「象は壁のようだ」という。皆触った部分が違うので、象の姿について意見が食い違い、自分が正しいと言い争いになる。しかし、実際には、どれも部分的には正しいが、全体をとらえていない。この話の教訓は「部分だけを見ていても真実はわからない」「視点が違えば真実も違って見える」「複数の視点を合わせて初めて全体像が見える」ということだ。一人の認識には限界がある。だからこそ他者の視点を尊重することが大切になる。この手の訓話は昔から多数ある。「木を見て森を見ず」とか「枝葉末節にとらわれる」とか我々の日常語にも飛び交っている。言い続けられているが実際には陥りやすいということだ。

 経営に置き換えると分かりやすい。多くの会社が見ているのは、「全体」ではなく「分かりやすい一部の数字」が多い。たとえば、売上。あるいは問い合わせ数、仲介件数、管理戸数、広告の反応、PVPage View(ページビュー)等々。こうした数字が伸びると、経営陣は安心しやすい。しかし「全体のつながり」を見ないまま打ち手を足すと、真の原因からズレが起きる。たとえば、

①売上が伸びているのに、利益が薄くなっている⇒値引きや広告費で削がれているリピートが減っている 

②既存管理戸数が減少⇒新規だけで持ちこたえている! 

③現場が限界に近い⇒残業の増加、品質低下、クレームの多発 

 このように数字の一部が伸びても、全体では“弱っている”ことがある。ここでよく起きるのが、判断のショートカットだといわれる。たとえば「売上が伸びた」⇒「もっと広告を増やそう」「もっと製品を作ろう、人を増やそう」もちろん、それが正解のケースもある。ただ、全体を見ずに増やすと、問い合わせが増えるほど対応が詰まり、品質が落ち、結果的にリピートが減ると、裏目に出ることがある。

 1980年代後半~1991年頃に起きたバブル期がそうだ。2030代の社員には理解できないと思うが、日本経済が異常なまでに活況を呈し、資産価格(株価・地価)が急激に上昇した時期だ。「財テク」という言葉がはやり、借金を元にレバレッジを利かす経営手法が当たり前になった。金融機関が担保価値以上の融資を当たり前に認めたのは、土地は永遠に上昇するという土地神話がまだ生き続けていたからだ。大手中小も含めた国中がイケイケドンドンと、バブル崩壊後の日本経済の30年にわたる不況原因を作ったのだ。

 

 

 

 一方で、全体を見る会社は「伸びた数字」を因数分解している。売上が伸びた! ではどの商品が伸びた? どのお客さまが増えた? その人たちは、何を求めて選んだ?ここまでつなげると、打ち手の優先順位が変わる。広告を増やすより、リピートの流れを整える。新規を追うより、単価が上がる提案を作る。部分ではなく「全体のつながり」に戻すことだ。これが、成果を出す人(企業)の共通点だ。自分の会社が「伸びた売上」は、何でできているか?・どの商品が・どんなお客さまに・何が刺さって・その後どうなったのか(リピート/紹介)ここまで因数分解して言語化できているか?もし言葉に詰まるなら、見ている数字(=鼻)は増えているのに、全体のつながり(=ゾウ)が見えていないサインと考えなければいけない。最初にやるべきは、施策を増やすことではなく、「売上の正体」を整理して、打ち手の優先順位を決めることだ。経営資源の乏しい中小企業ではムダ球は打てない。小売りに例をとってみよう。なぜその商品が売れたのか? ここまで深掘りしないと的を絞った対策は出てこない。

 ポイントは難しいノウハウではなく、お客さまに対する「ある質問」を突き詰めることだ。ここで注意したいのは、相手が自然に本音を語りたくなる流れを作り出すということだ。いきなり、「なぜ買ったのですか?」と聞くと相手は身構えてしまうからだ。先ずは、相手が答えやすい質問から入る。「どんな場面で使おうと思っていましたか?」等と相手が話しやすい空気を作るのが目的になる。更に「ほかに検討されたものがありますか?」等比較対象を聞くと顧客の価値観が自然に出てくるし、顧客が何を重視しているかを話しやすい。そこで、「最終的にこれにしようと思ったのは、どんなところでしたか?」と初めて購入理由に踏み込むのだ。この質問は相手がすでに話しやすい状態になっているからこそ効果がある。購入理由の裏には必ず感情がある。「それを選んだ時、どんな気持ちになりましたか?」「買ってみて、どんな変化がありましたか?」ここに出てくる言葉が、マーケティング的にはもっとも価値が高いといわれる。購買動機の深層に入ったからだ。それが分かれば、いかに購買動機を作るかになる。

 1兆円企業となったドン・キホーテが、今最もこだわっているのが、PB(プライベート・ブランド)商品の販売である。購買動機を商品名にした希有な戦略だ。すでに億超えの商品も多数あり、PB売上ランキング1位の「素煎り ミックスナッツDX」はなんと年間20億円も突破している。ドン・キホーテでは商品開発をする際に、消費者と一緒になってワクワクやドキドキを作り上げる商品を作ろうという目的があり、その目的達成のために6カ条を制定し徹底的に守られている。その6カ条の一つは、「現場主義を貫く」という顧客優先主義だという。「年間売上20億円突破!ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率、食塩・油を使わないこだわり」と、長い商品名だがインパクト抜群だ。全ての商品名がこんな名前にならなくとも勿論いいが、ターゲットに対してメリットやストーリーの伝わる商品紹介をすることはとても重要だ。ナッツを食べたいが健康を考えると躊躇するユーザーには刺さる言葉だ。「でも、こんな商品名考えられない」そう感じた方も少なくないだろう。「買うべき理由を商品名に入れる」という普通考えもしなかった言葉を入れ「名は体を表す」とイメージを喚起する。購買動機の重要性がよくわかる事例と言える。

   アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員 三戸部 啓之