[ 2017.1.25. ]
234号-2017.1.25
戦後日本の若者の仕事観は3段階で変化したといわれている。
1970年代は「会社の将来性」で会社を選び仕事を選んでいた。
1990年代では会社志向より自分の能力・個性を生かせるから「個人志向」が強くなっていった。2010年代「社会や人から感謝される」という「ちょっとした絆」の日々の実感が得られる事が選択の要素になった。特に東日本大震災後から「絆」が強調された。欲求5段階説の承認欲求である。
優秀な若者をひきつけ、急成長している会社では、互いの感謝や承認、尊敬をバネに切磋琢磨する風土がある。連帯意識と仲間意識に近い。人と人との関係、人と組織との関係には手段的と充足的側面がある。戦後日本人の場合、第一段階に属する高度成長期の「企業戦士」「会社人間」は会社組織に所属すること自体に充足的な価値を感じていた。シラケ世代以降の第二段階では次第に手段的な価値観が優位になっていく。会社に所属することは能力の発揮や余暇を楽しむ給料を貰うための手段なる。そして第三段階に属する今の若者たちになって会社中心ではなく仕事中心の価値観に変わり、仕事それ自体に充足的な価値を求めるようになった。
だから、大多数の若者は仕事を自己成長としての位置づけではなく、「面白い」「かっこがいい」という価値観で仕事を選んでいる。会社への帰属意識は希薄になりつつある。
「会社に忠誠を尽くせば最後まで面倒を見てくれる、まじめに勤務していればいつかは課長位になれる」という日本的雇用の特徴も業績の低迷から変わりつつある。
加えて老後の年金制度の破たん懸念、長寿リスクによる老後不安が会社に所属し忠誠を尽くす魅力を削いでいる。
反面、仕事の対価としての給与は、消費者として組み込まれ、その額も年々上昇するという期待も薄れている。家族を養う、自己の成長の糧として使う従来の観念からは距離が出てくる。だから「企業戦士」「社畜」「残業」という言葉に敏感に反応するし、「楽して儲ける」という言葉に絶対価値をおく。そこには「勤労」という観念はなく、汗水たらして働く意味も理解できない。会社に忠誠する意味もないから「労働者の権利」を殊更に要求する。言葉に語弊があるかもしれないが、一言でいえば「楽して過分な所得を得る」裏返しになる。
70年前の階級闘争そのままの再現だ。搾取する側と搾取される側の対置される闘争に近い。少子化で今後労働人口が減少してくる中で、そんな古びた階級概念を持ち出すこと自体が噴飯ものだが、色々と理屈をつけ正当化している。結果として非正規労働者の割合が1984年に15.3%だったが、2015年には37.5%に達し今後も増加傾向にある。
社会もアルバイトやパートにつく大人は「定職に就かない半端な人」「我慢ができないひ弱な人」「怠惰な人」との見方をしていた為、親も早く定職に就くように催促し、世間体もあり恥ずかしい思いをしていたはずだ。つまり、定職を持たない家族は社会の一員とは見られなかったのだ。だから少々のトラブルや理不尽な処遇にも耐えて歯を食いしばって明日を夢見ていた。
男は世帯主としての責任があった。生活資材の確保責任、子の教育責任、養育責任も含まれる。責任があるから「雷おやじ」といわれるように子供にとっては怖い存在で、それをカバーするのが母親の役目だった。
つまり家庭内での分業体制がきちんとできていた。社会もきちんと上下関係が整然とできていた。年寄りを敬い先輩には敬意を払う、教える側と教えてもらう側には画然たる上下関係があった。雇用者と被雇用者側にもある。夫々立場に応じた責任があった。責任に応じた権限も当然付与されていた。
この当たり前の前提が何時の頃からか、崩れ始めた。
最近、一部でサボり方ガイドが話題になっている。作成したのは第二次世界大戦時のCIA(米中央情報局)で、敵国内のスパイが組織の生産性を落とすためにどのようにサボればよいかを記した秘密資料である。(正確には、CIAの前身組織であるOffice of Strategic Servicesが作成。2008年に公開された)スパイ活動には相手組織を破壊することも任務の一つであり、そのサボタージュ任務のシンプルなマニュアルが「Simple Sabotage Field Manual」である。日付を見ると1944年1月17日となっており、まさに第二次世界大戦の真っ只中に作成されたものと分かる。
その方法とは、主に以下の11項目にまとめられるという。
① 「注意深さを促す」→スピーディーに物事を進めると先々問題が発生するので賢明な判断をすべき、と「道理をわきまえた人」の振りをする
② 可能な限り案件は委員会で検討→委員会はなるべく大きくすることとする。最低でも5人以上
③ 何事も指揮命令系統を厳格に守る→意思決定を早めるための「抜け道」を決して許さない
④ 会社内での組織的位置付けにこだわる→これからしようとすることが、本当にその組織の権限内なのか、より上層部の決断を仰がなくてよいのか、といった疑問点を常に指摘する
⑤ 前回の会議で決まったことを蒸し返して再討議を促す
⑥ 文書は細かな言葉尻にこだわる
⑦ 重要でないものの完璧な仕上がりにこだわる
⑧ 重要な業務があっても会議を実施する
⑨ なるべくペーパーワークを増やす
⑩ 1人で承認できる事項でも3人の承認を必須にし、業務の承認手続きをなるべく複雑にする
⑪ 全ての規則を厳格に適用する。
これがCIAの前身組織が敵国の組織をダメにするために実行すべきと定めたマニュアルの一部、つまり、スパイが敵国組織に紛れ込んで、いわゆる「大企業病」を発症させた。敵国をかく乱させ戦意を喪失させ、経済を混乱させる。スパイ活動には情報活動のほかに謀略活動も含まれる。旧ドイツの偽ドル印刷や国家の要職に入り込む、反政府組織を活動させる、捕虜を洗脳して帰国させる等が一般的で、先の世界大戦で実施された。その秘密文書の一部が白日の下になった。
占領下の日本国民に戦争に対する贖罪(しょくざい)意識を植え付けるため連合国軍総司令部(GHQ)が、中国・延安で中国共産党が野坂参三元共産党議長を通じて日本軍捕虜に行った心理戦(洗脳工作)の手法を取り入れたことが英国立公文書館所蔵の秘密文書でも判明している。
GHQの工作は、「ウオー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)」と呼ばれ、現在に至るまで日本人の歴史観に大きな影響を与えている。更に「民主化プログラム」で戦前の教育観をすべて否定し、権利を誇張しマスコミや教育現場を通じて刷り込んだ。武器(権利)の怖さを知らない者に武器(権利)の使用方法だけを教えればその結末は自明である。
戦後70年、なんの検証もなく社会に蔓延した結果が今の身勝手な権利主張の若者の跋扈する社会になった。何をやっても人権保護の名のもとに許される風潮を生みだしたのだ。
「はしたない!」「世間様に申し訳ない!」「おてんとう様が見ているぞ!」「人様に指をさされることはするな!」「年上のことをよく聞け」という叱責も死語になった。
最近会社説明会で東南アジアからの留学生の応募に立ち会うことが多いが、彼らの旺盛な意欲、どん欲な知識欲を見ると如何に日本人学生の無気力、無目的かが異様に映る。「末は博士か大臣か」までは言わないが、このままでは「去勢された日本人」だけになる「無責任国家」の出現だ。22歳にもなった大人の男女の会話が中学生レベルの内容だし、生活感も希薄だ。肉食人種の遠大なる戦意喪失計画を見たような気がする。ある国の政治的にも経済的にも隷属化に置かれるのは時間の問題かもしれない。
社長 三戸部 啓之