306号-2023. 1

[ 2023.1.1. ]

306号-2023. 1

2022年度宅地建物取引士(以下「宅建士」)の合格発表が11月22日にあり、受験者数226,048人、合格率は17.0%だった。当社は合格者7名、合格率17.0%だったので、辛うじて全国平均合格率になった。大手管理会社は平均として35%が目標とされるので、それから言えば課題は残る。

賃貸不動産管理会社としての業務に直結した資格ではないが、管理受託先のオーナーとの会話の中で当然、賃貸仲介の動向、入居者ニーズ、入居問題、賃料相場、節税対策、建築設備、構造等の話題は出てくる。社内でも賃貸・売買仲介部門を併設しているので、異動等を視野に入れれば宅建資格は保持することが義務付けられる。それだけではなく、先のような知識が求められる管理会社では、さらに深堀した関連資格も必要になる。

ちなみに関連資格として、「資産を運用する」という観点で不動産や税金・資産運用に関する問題が出る、ファイナンシャルプランナー試験(以下「FP」)がある。当社でのFP3級保有者は13人、FP2級保有者は6人、FP1級保有者は3人、「建築・施工」関係では2級施工管理技士6名、1級施工管理技士1名、2級建築士は5名、1級建築士は2名である。

新しい資格として、賃貸不動産管理業法の成立と同時に制定された、賃貸不動産経営管理士の資格は、合格率が30%、当社保有者は47人となっている。当社では宅建士、賃貸不動産経営管理士の資格は、工事担当者、経理担当者以外は夫々選択、必須資格としている。そういう意味で宅建士の位置づけは、当社のような不動産仲介・管理会社では、業務の入り口にある資格となり、会社としても資格取得を支援せざるをえない。

2022年の対策としては、受験予備校通学者11名、自宅学習者30名、で模擬試験4回、期初に月ごとの自己合格管理表を、各自の経験に基づき作成して実施してもらった。しかし、万全の態勢で臨んだはずだったが、結果は上記の通り惜敗だった。特に残念なのは今年度の新卒9名の内、合格者が1名しかいなかった点だ。その原因を精査すれば、そもそも能力自体がそのレベルになく、受験自体無理がある社員がいるのではないか、と考えた。今までは大卒である以上、単なる意欲の問題と環境作りの問題だととらえていた。学習には「机に向かうまで」の習慣化と「机に向かってから」の持続力を高めるための機能が必要と考えたからだ。人間はもともと、生死に係る場面以外では、怠惰な生き物、勉強せざるを得ない環境に身を置くしかないとの理由による。人は誰でも1日24時間、1年365日という平等な資源を持っている。その24時間の使い方を振り返ってみる。まず仕事の時間。これを仮に8時間とする。通勤時間は往復2時間。家で入浴したり、食事をする生活時間が2時間。睡眠時間は8時間。ここまで合計20時間なので、1日は残り4時間となる。一般的に、この4時間を私たちは「自分の時間」と呼んでいる。「自分の時間がない」とか「最近忙しくて自分の時間がとれない」といった感じだ。

では、この4時間が「自分の時間」であるとするならば、残りの20時間は「他人の時間」だということになる。特にその中の仕事をしている時間は、「拘束時間」と呼ばれたりもする。しかしながら1日24時間はすべて「自分の時間」であり、オーナーは自分なのだと発想を変えるべきだ。つまり、自分の気の持ち方でどのようにもなるということだ。だから、何処でも「自己管理」「時間管理」という言葉が出てくるのだ。結果、自己責任になってくる。「やる気」を出させるために、インセンティブや昇格昇給の条件としたりしているわけだ。

丁度10月に、橘 玲氏の著作「バカと無知」が出版され、その著述にショックを受けた。それによると、以前ヨーロッパ諸国の若者の失業率の高さが問題になった事があり、欧米の採用は欠員補充が基本で、企業は、『Aという仕事=職務ができる人』という内容で募集を出し、対象者が応募するという形で、日本のように何のスキルもない若者を一括で採用すること自体、非常に稀とのことだ。

しかし、経営者からは「どれだけ募集しても必要なスキルを持つ人材が見つからない」との声もあり、「失業の背景には仕事とスキルのミスマッチがあるのではないか?」ということで、仕事に必要な「読解力」「数的思考力」を実際に調べてみたらしい。それが2011年から12年に実施された、PIAAC(国際成人力調査)というものだ。それはPISAの大人版で、24カ国、地域の16歳から60 歳の約157,000人を対象に、読解力、数的思考力、ITスキルを調べた。その結果、日本も同じような結果が出た。「小学校5年生程度の読解力」のレベル3の問題に正答できない成人は、日本では27.3%、レベル4の問題では150字程度の本の概要を読んで、質問に当てはまる本を選ぶが、日本では8割近い成人が、このレベルの読解力を持っていない。

「数的思考力」のレベル3は、立体図形の展開で、日本の正答率は62.5%だ。レベル4は単純なグラフの読み取りでビジネスでは必須能力だが、このレベルに達しているのは日本人の約2割、18.8%しかいない。日本では高い偏差値ばかりが注目されるが、人口のおよそ6人に1人は偏差値40以下だ。説明を読んで、役所の書類を正しく記入するためには、偏差値60程度の能力が必要になる、そうなると、自力で申請できるのは、およそせいぜい5人に1人で残りは誰かに頼るか諦めるしかないという驚愕的結果が出たという。

当社でも、もしそのような事実が証明されるならば、宅建指導も含めた社内教育の方法自体考え直さなければならない事になる。そこで先日、不合格者に「学力基礎テスト」を実施した。

宅建士の問題自体も「読解力」と「論理力」を必要とするものが多くなったので、中学生レベルの問題で実施した。合格点は15問、44点中7割31点としたが、34名中合格者は9名(26.4%)、正答率5割以上は26名(76.4%)だった。結果からすると当社社員の7割強は中学生1-2年生レベルの基礎学力がないということになる。簡単な算式、熟語、ことわざ等の常識問題での正答率は平均60.3%、20-30代の読書習慣のなさ、新聞社の社説レベルの語彙を読む力がない事が明確になった。年代別の分析もしてみた。論理的思考力を試す問題では20代社員は55.8%、30代では63.3%、40代では69.1%で、20代社員の理解力のなさ、要約する力のなさが指摘される。

特にテコ入れが必要な社員に「読解力基本ドリル」を与え、3ヶ月間それに集中させ、本格的な宅建士の受験勉強は4月からに臨ませることにした。2023年度の結果に期待したい。

  今回間違いの多い問題は以下の通りだった。

問1 240段ある石段をA君は一歩で4段ずつ、B君は3段ずつ登っていきました。

   A君とB君が2人とも踏んでいない石段は何段ありましたか?

問2  次の言葉をそれぞれ尊敬語と謙譲語に分けなさい。
          ・うけたまわる   ・差し上げる   ・おっしゃる   ・拝見する

問3 ビルの6階からボールを落とすと3秒で地面に落下しました。では5階から落とした場合、 何秒で地面に落下しますか?
ただし、ボールは重力により加速したりせず、常に一定速度で地面まで落下するものとします。

      ※  答え : 問1→120段、問2→謙譲語、謙譲語、尊敬語、謙譲語、問3→2.4秒

                   

   会長  三戸部 啓之