341号-2026.2

[ 2026.2.1. ]

341号-2026.2

 「本当は社員の給与を上げたいけど、社員が成果を出してくれない」という悩みを持つ経営者はたくさんいる。一方で給与が高く社員がドンドン成果を出す企業もある。その代表となるのがキーエンス(センサー等精密制御・計測機器等ファクトリーオートメーション総合メーカー)だ。
 キーエンスは社員の平均年収が2,000万円という高額さで有名だが、営業利益も2023年度は51.2%と驚異的で、一般的な製造業の5倍以上の水準だ。なぜ、そんなに給与を上げられるほどに、収益を出せているのかと、疑問に持つ方は多いはずだ。その答えには中小企業も実践できる、ある“秘密”が隠されている。キーエンスは「少数精鋭」「高収益」「成果主義」の三拍子がそろった企業であり、給与水準の高さは、その経営哲学の結果にすぎない。
 その要諦は次の3つに分類される。


① 圧倒的な高収益性のビジネスモデル
ファブレス経営である。自社工場を持たず製造は外部委託している為、固定費を抑え利益率を高めている。

② 徹底した成果主義と人材育成
厳選された採用基準をとり、優秀な人材に絞って高待遇を提供し、営業利益の10%を還元。もちろん賞与も業績による差をつける。2025年度は就職倍率75倍、採用人数300人と理系学生や営業職希望の学生から根強い人気があり、早稲田、慶応等難関大学からの応募も多い。

③ 革新的な企業文化と商品開発力
高付加価値の製品を開発し、直販体制をとっている為、ニーズに即した提案が可能。

 以上からは、別に奇を衒う事でもなく、我々中小企業でも採用している処は多いと思うが、キーエンスの時間管理の徹底と効率重視はまねのできないレベルにある。更にキーエンスが組織づくりにおいて重視していることは「圧倒的なまでの情報共有の徹底」だ。「え?そんなこと?」と思うかもしれないが、答えは単純だ。しかし、この情報共有こそが社員の生産性をアップさせており、その結果、給与アップの実現につながっていた。
 
では、具体的にはどんなことをしているのか。キーエンスでは営業社員が外出して顧客訪問をする前に必ず「外出報告書」を提出する。外出報告書そのものは特別ではないと思うが、凄いのはその活用法だ。外出報告書は、乗車時間、降車時刻(顧客先までの会社などからの移動時間)、訪問予定時刻、面談時間(10分単位)を1分単位で管理される。営業効果を最大にするために、その前提となる行動量を担保するために、行動を分単位で測定し、無駄を生まない仕組みを作っている。
 朝礼は810分に開始、その後直ぐに営業に出向き夕方まで外回り、帰社後は翌日の準備や営業計画の共有。何時何分にどこで誰と何の話をしたかを詳細に記録する。それを元に上司と次回の訪問内容を協議する。提案する商品や受注後の改善提案など、細部にわたる打合せを実施し、アドバイスを受けた上で顧客を訪問する流れになっている。
 このプロセスによって営業社員は外出報告書を作成するために、常にみずから調査や勉強をしないと上司の質問や応酬話法に対応できない。さらに副次的効果として上司のノウハウも直接吸収できる事になる。教え教えられ共に学ぶ姿勢だ。つまり外出報告書という情報共有によって人材育成が仕組み化されている。
 これにより社員1人ひとりの生産性が爆発的に向上しており平均年収2,000万円という夢のような給与額を実現している事になる。キーエンスが実践している情報共有は給与もそうだが、社員が成長できるという面でも社員に“幸福”をもたらしている。勿論ついてこられない社員も少なからず存在し退職率も高い。これをマスコミ等が糾弾することがないし、「高収入、成果主義、成長環境」などを重視する学生には魅力的な企業として認識されているからだろう。

 

 もちろん、この情報共有を真似するだけですべての企業が、キーエンスのような平均年収2,000万円(2025年度2279万)を実現できるかといえば、それは難しいと思われる。しかし情報共有に限らず、社員が幸せに働くことを実現することができたなら、働く意欲が上がりそれがお客さまの幸せにもつながっていく。その結果、社員が自走し集客もどんどん増える理想の組織になっていくはずだ。では、どうすれば社員を自走させられるのか?が次の課題になる。一般的に自走する社員を作る為には、単なるスキル教育ではなく、環境、マインド、仕組みの3つが必要とされる。


① 目的と期待値の明確化
社員が何のために働いているのかを理解できるよう、会社のビジョンや部門の目標を明確に伝え、自分の責任範囲と期待される成果を明確にする。

  • ② 思考力と判断力を育てる
    失敗を許容する文化があることで、社員の心理的安全性を確保する。
  • ③ 環境と仕組みの整備
    意思決定に必要な情報が社員に開かれており、プロセスや挑戦を評価することで、自律的な行動が報われるようにする。
  • ④ 配置の工夫
    適材適所の配置で、能力の最大化を図る。                    
  • ⑤ 組織全体での取り組み個人だけでなく、チームとして自律的に動けるようにする。

 

 弊社によらず通常の企業経営にあっては、自走する社員作りは理屈や概念として理解しており、目新しい事ではないはずだ。そこで先のキーエンスの例をとり考えてみたい。
 まず、自律的に働くための考え方を身に着けさせる必要がある。その為には自分の仕事に責任を持つ意識を育てるオーナーシップ思考が必要だ。ただ漫然と指示に従ったりせずに「何のためにやるのか?」を常に考える習慣付けが大事になる。自分だったらどう思うのか?と自分事に置き換える習慣が必要だ。火事があっても騒ぐだけの傍観者が80%、火消しの行動をとる人が20%だとされる。大多数の組織でもその分類のレベルだと思われる。その中の20%を目指したいものだ。
 自分の担当している業務でも他人事なのだ。他人事だからその人が置かれた苦痛や困惑、損害に気が付かない。当社でもよく起こる事例だ。しかもリーダーがその意識がないと最悪だ。誰も指摘するものがいないので、本人の教育にもならないし、本人の自覚もないから、当然顧客からの信頼は得られない。当社の方針である「顧客の最良のパートナーになる」なんて、はるかに遠いレベルだ。現場から離れる距離に比例して、現場感覚がマヒしてくる。自己成長のために、例え損な役割であっても常に「火中の栗を拾う」姿勢が必要だ。昔から「情けは人の為ならず」という諺があるではないか。他人に親切にする事は巡りまわって自分の為になるという事だ。サービス業の基本は「ヒトへの奉仕」が根底にある。儒教的思想の中にも「先義後利」とある。まず道義を重んじ、利益はその後に求めるべきだ。英語圏でもgive before you take とあり、世界共通の理念といえる。その気持ちをもって行動する事が顧客満足度を高め信頼関係が構築できるはずだ。


 2番目に自ら課題を見つけ解決する力を養う事が必要だ。問題の構造を分解し、論理的に考える力を強化するには、仮説を立て検証するプロセスを体験したり、実際の業務課題をチームで解決したりすることも効果的だ。往々にして勘違いするのは、自主性の名のもとに放置することだ。効果的な教育としては、事実に基づいた状況を整理させ、何が起こったかを、自らの主観を除き言わせ聞き取ることだ。そこでのポイントは自己正当性を含んだバイアスをかけさせない事だ。バイアスがかかると事実関係が曖昧になってしまう。ここでもPDCAのサイクルは効果的だ。特に未達の場合には、キチンと事実関係を整理し、何が問題だったのか、相手の反応はどうだったのか?を反省材料とする事が、自己の成長に帰する事になる。特に先輩や同僚のアドバイスは謙虚に受け取るべきだ。それがチームの結束を強固にし、愛社精神にもつながる。

 

           アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員

                                  三戸部 啓之