340号-2026.1

[ 2026.1.1. ]

340号-2026.1

 USJ・丸亀製麺のV字回復を実現した森岡毅氏、現在も沖縄のジャングリアの企画運営でも脚光を浴びています。ロート製薬を急成長させた西口一希氏、マクドナルドやファミリーマートをV字回復させた足立光氏等、日本を代表するマーケターたちは皆P&G(米プロクター&ギャンブル:略称P&G)出身です。P&Gはアメリカ合衆国オハイオ州に本社を置く、世界最大級の日用消費財メーカーです。日本でもアリエール(洗濯用洗剤)、ファブリーズ(消臭芳香剤)、パンパース(紙おむつ)ジレット(シェービング用品)などで身近な存在です。この会社は高いブランド育成力とマーケティング戦略で知られており「ブランドマネージャー制度」を確立した企業としても有名です。なぜP&G出身者は“常勝”することができるのか? 誰でも関心があります。P&G 出身者は“常勝”することができる理由、その答えはもちろんP&Gで学んだマーケティング術に隠されています。そしてそのP&Gの学びを伝えているのが、P&Gで「SK=Ⅱ」や「ファブリーズ」を大ヒットさせその後、コカ・コーラで「綾鷹」「からだすこやか茶」などを大ヒットさせたマーケター、和佐高志氏と言われています。P&Gのホームページでも、高らかに「イノベーション」を謳っています。イノベーションを謳う企業は多くありますが、単なる題目だけでP&Gのように、大々的に書いている企業は少ないと思います。
 【イノベーションは、P&Gが最も得意とする分野です。私たちは問題の解決策を見つけることに喜びを感じます。スタートアップの心とグローバル企業のリソースを持ち、私たちは常にビジネスのあらゆる側面を革新する方法を探しています。私たちがイノベーションを起こすとき、人々のニーズ、価値観、欲求、情熱にインスピレーションを見出します】とあります。それが1837年創立以来現在まで脈々と続き新製品を次々と出しています。イノベーションの前提にあるのはインサイトです。「インサイト」とは、英語で「洞察」や「見抜くこと」を意味し、顧客や消費者が自覚していない無意識の心理や本音を指します。これは、マーケティングやビジネスにおいて、顧客を動かす本質的な理由を見つけるために重要な概念です。単なる「ニーズ」とは異なり、顧客自身も言語化できない感情や価値観の深層に隠れています。 顧客自身も気づいていない本音、顧客が「何となく」感じている、意識していない感情や欲求のことで「ニーズ」とは異なります。顕在化した「欲しい」という欲求(ニーズ)のさらに奥にある心理的な背景を指します。それゆえ消費者が商品やサービスを選ぶ際の、無意識の決め手となります。顧客を動かす本当の理由を理解することで、より的確な商品開発やコミュニケーション設計が可能になる訳です。
 先の和佐氏が語るP&Gのマーケティング術。それは、「インサイトの発掘」です。インサイトとは「お客さまも気づいていない心の奥深くの欲望」を指します。インサイトの重要性は森岡氏も、西口一希氏も明言しています。「インサイトを見つけそれを満たしてあげることができれば商品はヒットする!」と和佐氏はそう言っています。彼が担当したファブリーズを例にとると、ファブリーズは、芳香剤ではなく「臭いそのものを取り除ける」という商品です。今まで、ファブリーズは部屋や衣類専用のものしかありませんでした。ファブリーズで新たな市場を開拓できないか?と考えたわけです。
 そこで和佐氏が注目したのが「トイレの芳香剤」です。トイレの芳香剤は当時どの商品も「臭いを取り除く」のではなく「強い匂いでイヤな臭いを上書きする」というものでした。「においが混ざるのは嫌だと思っている人は必ずいるだろう!」でも、トイレの芳香剤はどの商品も”上書き”するものだから、しょうがないと思って不満を言っていないだけだ」そう考えた和佐氏はトイレ用の「置き型ファブリーズ」を商品化し、大ヒットさせたのです。ファブリーズだけでなく、彼がヒットさせた商品はみな「インサイトの発掘」から生まれていると言われています。
 ヒットの種はインサイトから生まれる。これがP&Gのマーケティング術です。インサイトを特定することで、消費者の心を動かす本当の理由を理解し、効果的な商品開発やコミュニケーションが可能になるという訳です。例えば「おしゃれな服が欲しい」という潜在ニーズの裏には、「周囲からセンスのいいひとと思われたい」というインサイトが隠れている場合があります。でもどうやってインサイトを発掘し、ヒットさせるんだ?を知らなければ先に進みません。

 インサイトを引き出すには一般的にアンケートやインタビューが用いられます。インサイトを引き出す質問には「なぜ」「どうして」を深堀するオープンクエスチョンと、感情や価値観を掘り下げる質問があります。具体的には「なぜこの商品を選んだのですか?」のように行動の理由を問う質問や「もっとも満足した瞬間は?」のように感情に焦点を当てる質問、さらには「もし新メニューを追加するとしたら?」といった仮想の状況を尋ねる質問が有効だといわれています。しかし注意するべき点もあります。「なぜを多用しない」「相手の回答を深堀する」事が意味を持ちます。相手が問い詰められていると感じさせない、相手が使った言葉や発言の裏にある、さらに深い理由や価値観を掘り下げる事です。これはそれなりの訓練をしないと難しいかもしれません。インサイトというマーケティング用語がありますが、以前から「顧客の深層心理を探れ!」という指摘はありました。表面的な言葉ではなく相手の真意を把握しなくてはならないといわれていました。優秀な営業社員はその辺の基本的な言動をきちんと体得していたはずです。

 製造業では高度成長が終わった1970年から、生産者側の論理ではなく消費者側の論理で物事を考えよ!と言っていました。企業側の売りたいものではなく、消費者側の買いたいものを作る必要があったのです。消費財が行きわたり飽食の時代では、プロダクトインの発想ではなく、マーケットインの発想が必要だと言われていました。だから、今更、インサイトの発想に学べと膾炙されても言い古された言葉の焼き直しにすぎないのかもしれません。それから言えば、当たり前の企業の姿勢は、時代は変わっても変化しない真理だという事にもなります。しかしそれをきちんと業務の中で体現している企業は少ないという事でもあります。勿論、弊社でも顧客の深層心理を把握して行動している社員は殆どいません。深層心理どころか、指摘された事さえも正面から受け止めていない社員が残念ながらおります。勿論無視するという事ではなく、部門が違うとか、時間的余裕がないとか、うっかり失念したとかの理由はあります。

 弊社の方針である「顧客の最良のパートナーになる!」からはマダマダ距離がある社員が大多数です。弊社のような「経験と知識を売る」組織は必要条件として、常に顧客の心理をくみ取り、それに応じた行動をとることがポイントです。他社との差別化が難しい企業の共通の悩みでしょうが、社員の対応如何にすべてがかかっています。痒い所に手が届く社員が必要なのです。

 モノを売る企業ならば社員の対応能力以上に、モノの評価次第で決まってしまいますので、企業側の力点は勢いイノベーションにかかってきます。製造業とサービス業は社員教育の視点は自ずと変わってくるはずです。ところがこの辺の基本的立ち位置を理解している社員は意外と少ないのです。団塊世代のオッサンたちも偉そうに言えませんが、最近の若者は「社会性」がない「集団的知性」が欠落していると感じざるを得ません。特に1980年以降に生まれた若者に顕著にみられます。近所のガキ大将と遊んだり、仲間同士で遊んだりした経験が少ないからでしょうか。家から外出せず、四六時中ゲームに興じていれば、他人と接する機会がなく組織の論理や協調性、人を慮る心など望むべくもありません。更に家庭内教育を学校に委任している以上、両親からの薫陶もないでしょう。結果的に躾は勤務先の責任になってしまうことになります。勤務先としては必要に差し迫られて躾をすることになりますが、やり方次第ではパワハラ、セクハラとして窮地に追い込まれます。残念ですが休職する者もいます。サービス業へ応募する以上、顧客対応能力は自ら習得する姿勢は持ってもらいたいものです。

 弊社では会話を含めた基本的な動作の研修に時間と費用をかけていますが、マダマダ顧客対応能力は課題が一杯です。クレームや不信につながりかねない問題ですが、物件オーナーの寛大な配慮もあり現在まで来ておりますが、経営側としても危機感をもって対応しています。

           
           アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員
                                  三戸部 啓之