347号-2026.8

[ 2026.8.1. ]

347号-2026.8

 「もう価格競争に巻き込まれたくない!」「競合他社より高額だとなかなか売れない」。しかし、これ以上の値下げは無理だと考えるのが、企業の大きな悩みである。別に暴利をむさぼっているわけではない企業が多い中で、こうした悩みを持つ経営者は多いだろう。かつては、世界的家具メーカー「IKEA」ですら、この悩みを抱えていたといわれている。

 IKEAは、どうやってこの悩みを解決したのか。まだIKEAがスウェーデンの中小家具メーカーだったころ、競合との価格競争に悩まされていた。価格競争に勝つには、価格を下げるのが一番だが、価格を下げれば、商品の質も下がる。そこでIKEAが対策として行ったのが「サービスの切り売り」である。簡単に言えば、自社のサービスを分解し、お客さまにとって必要なサービスだけを安く提供したのである。IKEAは家具メーカーなので、①家具のパーツを作る ②パーツを組み立てる ③完成した家具をお客さまに届ける、というのがサービスとなる。なんと、IKEAは②と③を、お客さま自身に行ってもらうという大胆な施策を実施したのである。パーツだけを店舗で販売し、お客さまに受け取ってもらい、自身で組み立ててもらう。その代わり、浮いた人件費などの分を、商品のクオリティ向上に使う事で、お客さまにとって「作るのは面倒だけど他社よりも質が良くて、安い」という状況を創り出し、競合に圧倒的な差をつけた。この戦略により、IKEAはスウェーデンだけではなく、世界的家具メーカーとして成長することができたのである。しかし1970年~80年代の日本進出で大きく失敗した経験がある。理由として挙げられるのは、マーケットのとらえ方の失敗だ。それは、日本の住空間の狭さを理解していなかった点や、大型家具を自分で運び組み立てる方式が日本文化に合わなかった点などである。進出初期の日本では、家具を自分で組み立てる方式が「不親切」と受け取られた事実があった。この失敗を真剣に受け止め、再挑戦までに約20年をかけて市場理解を深めたことで、成功に結び付けることができた。外資企業に共通しがちなグローバルブランドの押し付けではなく、日本の暮らしを深く理解し、尊重した点に成功の理由がある。

 再進出時、IKEAは日本の生活様式を徹底的に研究し、小さな部屋に合う家具サイズなど日本向けに最適化した戦略を採用し、組み立てサービスの強化、配送サービスの改善等、単に商品を売るのではなく北欧の暮らし方を体験できる空間として、店舗を設計した。第2次トランプ政権のアメリカ車の強弁な輸出増大欲求とは根本的に違う。企業経営に共通することだが、IKEAには失敗から学ぶ謙虚さ、徹底したローカリゼーション、日本文化の品質基準への敬意があった。これらが合わさりIKEAは、日本で独自のポジションを築くことに成功したといわれている。

 IKEAと対比して語られる企業に「ニトリ」があるが、両社は似ているようで思想が全く違うとされている。大きく分けると、IKEAは「ライフスタイル提案型」、ニトリは「製造物流IT小売業」である。IKEAは世界観を売り、ニトリは生活の不満を解決する企業方針だといえる。ニトリは原材料調達、商品企画、製造、物流、販売まですべてを、自社グループで完結させている。これにより、中間マージンの徹底削減、高品質・低価格の両立、需要変化への高速対応が可能になる。ニトリの価値提案は、テレビコマーシャルでも有名な「お値段以上」を実現するコスト構造の最適化にある。「島忠」買収によるホームセンター取り込みにより、家具×ホームセンターという補完関係を活かして、事業領域を拡大している。最近では家電事業にも進出しており、総合生活産業としての位置づけを目指している。

 両社から我々が学び取るべきものは何かと言えば、サービス業としての再構築である。差別化要因としては、サービス業といえども「価格」は無視できない。賃貸仲介、管理業としての価格とは何か。モノの値段はもちろん、タイムパフォーマンス(時間対効果)も重要になる。モノの価格は「高品質の物件の供給と的確な市況賃料」であり、安価な設備更新費用・修繕費用の提供も重要である。タイパとしては迅速な顧客対応と空室期間の短縮が挙げられる。

 それぞれの項目について考えてみよう。まず、「的確な市況賃料」とは何かである。簡単に言うと「現在の市場で合理的に成立すると考えられる賃料」を指す。要因としては、立地条件、物件の築年数、状態、設備、間取りの広さ、用途、周辺の賃料相場、需給と供給のバランス、地域の再開発や経済動向等が複合的に作用し、賃料水準が形成される。昨今のような異常な賃料の値上がりには、建築材料の値上がりと海外からの投資マネーの流入がある。まさに1990年に起きた不動産バブルを想起させる。実需を超え始めた点では、弾けるのも時間の問題である。特に借り入れでレバレッジを利かせた一般投資家の物件は破綻し、それがまた市場に流入すれば、賃料相場は一気に下落してしまう。

そこで生き残るのは、優良入居者をバブルに踊らせるのではなく、適正賃料で貸し続けた物件のオーナーのみだと思われる。これを裏付けるように、20251月~6月の首都圏の投資用賃貸物件の供給戸数は、前年同期比14%減の1864戸となっており、2026年度は投資用賃貸物件がより一層減少するだろう。もちろん当初の賃料より下落すれば、ますます投資の妙味がなくなり、破綻した物件が市場に出回ることで、賃料はさらに下落する。2020年度の国交省の調査では、34%を外国人が占めているため、彼らにとって投資の妙味がなくなれば、さっさと売却してしまい、残るのは高額家賃に支えられた空室のみとなる。都心5区の人気エリア以外は、賃料の下落がますます激しくなると考えられる。

 次に「安価な設備・修繕費用」である。建設労働者数の推移は、1997年の685万人をピークに、2024年には477万人とピーク時の約70%になっている。つまり25年間で、200万人以上減少していることになる。しかも人口減少と高齢化は進み、今後さらに減少することが予想される。外国人材の活用やデジタル化による生産性向上を図っても、人手不足には対応できず、建築費の高騰は避けられない。賃貸住宅で頻繁に費用が発生する原状回復費用については、畳部屋をなくす、無垢材を使う、造作のないスケルトン貸しにする、クロスをやめて塗装壁にする等の方法があるが、初期費用との絡みで有効打はない。キャッシュフローで考えるならば、今、立法化を進めている修繕積立金の経費化である。これが認められればキャッシュフローが安定するため、賃貸経営にとって大きなメリットになる。

 最後は「迅速な顧客対応と空室期間の短縮」である。「入居者に快適な住環境を提供する」にあたって必要なことは、設備の故障対応、近隣との良好な関係づくり、生活上のルール維持など多岐にわたるが、それに対応するには、管理会社としてのオペレーションがポイントになる。それなりの人員確保と教育制度が必要である。国交省でも遅まきながら、管理会社の登録制度を実施し、指導を含めて質の確保に努めている。供給過多により需給バランスが崩れてきたことで、空室期間の長期化が常態化してきた。価値に見合う物件の提供が基本になるが、貸し手側の資金的な制限もあり、状況に即した対応変化は難しい。まして通常、ネットで希望物件を50件抽出し、条件を絞り、その中の5件を具体的に検討し、初めて不動産会社の店頭に来店する流れでは、第一段階で50件に入らなければ、永遠に選択肢から除外されることになる。そのためには最大公約数の要件を具備することが必要である。マーケット情報を貸主に適宜伝えること、物件のリニューアルを常に心がけることが必要であり、シーズンに応じた迅速な賃料改定も必須になる。管理会社と常に情報交換し二人三脚で対応できるかがポイントになる。

    アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員 三戸部 啓之