343号-2026.4

[ 2026.4.1. ]

343号-2026.4

 安売りだけで勝負せず、競合に勝つために不可欠な「差別化」が必要だ!とは言い古されています。しかし、多くの経営者が、差別化したくてもうまくいかず、集客が増えないことに悩んでいます。そこで、ある”思い込み”から抜け出したことで、競合にはない独自の強みを作り出し集客も売上も大きく伸ばした企業があります。

 中小企業の経営者の多くが陥っている差別化が、うまくいかなくなる思い込みそれは「業界の定番・常識」です。言葉を変えれば、従来から実施している業界の販売手法です。

定番とはつまり競合がこぞって打ち出しているお決まりの商品・サービスのことを言います。

  例) ・スーパーのタイムセール(一定時間を決めて特別価格で提供)

     ・携帯電話会社の他社からの乗り換えキャンペーン

 なぜ定番になるかと言えばもちろん「売れるから」なのですが、競合がこぞってやっていることだから「自分もやらなきゃいけない」と思い込んでいる経営者も多いはずです。それをストレートに取り入れる事は、単なる成功事例のマネをしたというレベルです。自社の経営資源や、主力商品のTPO(時間、場所、場面)に応じた販売手法とは言えません。

 しかし実はこの定番こそが、差別化を難しくする要因になっていることがあります。競合がみんなやっているということは裏を返せば、「どの企業でも同じもの」つまり、差別化ができない部分ということになります。反対に差別化できる部分とは、価格、時間(開業時間)、場所(立地、店構え)、性能(品質、接客、希少性)があります。取り組みやすい項目から言えば価格→時間→場所→性能となり、顕示性やインパクトから言えば、価格をいじることが手っ取り早いし、対応する時間もかからない。だから短兵急に売り上げを望む企業は、勢い安価な価格を打ち出すことになりやすい。本来なら、企業存続から言えば「禁じ手」な筈です。だから実施するにも、企業側も主力商品以外の商品に限定したり、販売時間を決めています。

 ここに気づき、差別化のために「定番」をやめたのが、ビアレストランの「キリンシティ」です。ドイツのビアパブ文化を取り入れた高品質なビールを楽しめることで、2017年には44店舗を持つ人気店に成長していましたが、次第に集客がうまくいかなくなり、26店舗にまで縮小。そんなキリンシティが、集客アップのために止めたのが「飲み放題」だという訳です。お酒を扱う飲食店であれば多くが取り入れている定番のサービスですが、実際、キリンシティでも、売上の10%を飲み放題が占めており、飲み放題をやめることに反対する声が社内でも多くあったそうです。では、なぜ飲み放題をやめたのか?その理由は「飲食店でお酒を楽しむお客さまが、何を求めているのか」を考えたからです。飲み放題サービスは、お酒を多く飲みたい人にとってはたくさんのお酒が安く楽しめる一方で、「宴会の騒がしさが苦手」「量を飲むよりもじっくり味わいたい」「お酒だけじゃなく料理も楽しみたい」というお客さまにとっては、むしろ来店しづらい理由になっていました。そこでキリンシティは飲み放題をやめ、代わりにノンアル・低アルコールのお酒や少人数でも楽しみやすいフードメニューを追加したわけです。その結果、子供がいるファミリー層や、静かな時間を楽しみたいカップルの来店が増加し、飲み放題をやめる前と比べて130%の売上アップを達成しました。

 キリンシティの事例で重要なポイントは「とりあえず定番をやめればいい」わけではなく「お客さまの求めているものを考える」ということです。そして企業側の予想するターゲット客を変えたからです。更に市場性をキチンと把握したともいえます。独身世帯数や家族世帯数も商圏から判断したはずです。この発想の転換はコペルニクス的転回といえるかもしれない。スィッチコストもかからない秀逸な変わり身といえます。しかしターゲットを変えるという事は中々難しい。組織の宿命として慣性の法則が働くからです。大きな船が急に舵を切ろうとしてもできないのと同じで、ここではリーダーの力量で左右されます。キリンシティの場合、定番の飲み放題をやめる代わりに「宴会の騒がしさがない店でお酒も料理もじっくり楽しみたい」というニーズを満たしたことで売上アップを達成しました。

 では、お客さまが求めているものを理解し、競合にはない強みを生み出すにはどうしたらいいのか?という事になります。そのために必要なのが「マーケティング」と言われていますが、最近の事例として紹介したい企業があります。

 先日、相鉄線海老名駅近くにできた「ハンバーグの店;福よし」に行きました。ここ海老名はハンバーグの激戦地です。既存のハングリータイガーやブロンコビリー、アウトバックステーキハウス、エイト・オーズファーム、ビナキッチン等がひしめき合っています。後発である「福よし」が敢えてここに進出した経緯は関心がありましたし、どのような差別化戦略をとるのか興味津々でした。

 「福よし」のキャチフレーズは「とろけるハンバーグ福よし」でした。価格も20003000円と他の競合店と変わりはありません。ところがこの店は、「ハンバーグにつなぎを入れない」「シャトーブリオンの味を出している」を前面に打ち出していました。「つなぎを入れない」とは、肉の臭みや、旨味をしっかり閉じ込められない、ジューシーでふんわりの食感が、なくなりやすいマイナス面があります。ハンバーグが、ボロボロになりやすいので、食べにくい事もあります。その為、普通ハンバーグにはつなぎに、パン粉や卵を使用します。ファミレスなどでは肉より大豆ミートの方が多い場合もあり、ここでは一切使用していないという事でした。実際、欧米のハンバーグはつなぎがないものが多いそうですから、つなぎを入れるのは日本独自のものかもしれません。「つなぎを入れない」代わり「シャトーブリオン」自体一頭の牛から600gしか取れないという「究極の希少部位」である「とろける食感」を国産黒毛和牛で表現したものと言えます。つなぎを入れないマイナス面を肉質でカバーした訳です。そのそも、創業者住村哲央氏がシャトーブリオンの上質な味に感銘を受け、この味をもっと多くの人に届けたいという思いから、自身の精肉知識と料理経験を元に長年研究を重ね完成したといわれています。

 この創業者の思いこそ起業家の原点でしょう。更に秀逸なのは、そのふんわり食感を演出するために、目の前の鉄板で自分で焼き上げ、顧客との共同作業で食するという狩猟民族のDNAをくすぐっているのです。カップルであれば調理をする事で、会話が弾み満足感は倍加するはずです。しかも、熟練した職人が調理するのではなく、アルバイトでも再現できる調理方法を確立した点は大きいと言えます。その固定費を抑えた事で、上質な食材を使用しても販売価格を抑える事が出来たのです。その結果、20232月に岐阜県長良店のオープンから12ケ月のペースで新店舗を開設しています。どこでもあるハンバーグに、新風を吹き込み新たなビジネスチャンスを創出するのは、創業者の強固な思いと顧客満足度をいかに満たすかにあります。

 翻って当社での業務に置き換えれば、何処に他社との差別化を図り、顧客満足度を満たすかを、社員一人一人が点検し実践するしかありません。どこでも同じで変わらないでは、顧客から評価されません。

 

   アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員   三戸部 啓之