344号-2026.5

[ 2026.5.1. ]

344号-2026.5

 経営において、商品やサービスが売れないとき「一体どこがダメなんだろう?」と考えると、考えられる原因が多すぎて、なかなか方向性や施策が決まらない事になる。商品性能、サービス内容、接客態度、店舗立地、宣伝方法、販売力、価格などが思い浮かぶ。しかし「ある2つ」を押さえることで、売上改善のヒントを掴むことができるといわれている。消費者の購買における心理的要素に戻るという事だ。
 では、その”2とは何か?それは「想起のタイミング」と「セールスのタイミング」だ。1つ目の「想起のタイミング」とは、簡単に言えば、お客さまが「自社の商品を求めるタイミング」に、広告や宣伝を出せていますか?という話になる。例えば、たまたま立ち寄った駅で、ランチを食べたくなった時、その場にあった看板や広告がきっかけでお店に行くことはあるのではないだろうか。そこで重要なのは、「顧客が求めるタイミング」に出すということになる。全くお腹がすいていない時に飲食店のチラシが届いても、あまり心は惹かれない。「広告やってみたけど効果が出なかった!」「いくらチラシを出しても集客出来ない!」という場合は、このタイミングを間違えて、費用を無駄にしているパターンが殆どだと思う。では、そのタイミングはどこか?これは、顧客の行動・感情動線によって正解が変わる。飲食店やクリニックといった店舗を構えるビジネスなら「看板広告」「Googleマップ」になる。ECサイトなどであれば「Web広告」「SNS」などが効果的だ。検索が容易で、すぐ目に付くことがポイントだ。
 検索が上位に来るようにするSEO対策(Search Engine Optimization)やリスティング広告(Listing Advertisement)があり、それをビジネスにしているGoogle等は膨大な利益を得ている。但し、自社のビジネスの顧客の属性、競合の存在によって正解は異なる! 顧客の財布の中身や、食事をする用途により、店の選択は変わるし、店への入り安さ、雰囲気でも変わるからだ。店に入るか否かは別にして、先ず入ろうとするきっかけ作りが最初にある。

 次に売上をUPさせる2つ目の「適切なタイミングでのセールス」がある。これは「何時に営業をかけるか?」という話ではなく、「お客さまが買おう!と盛り上がる瞬間でセールスをかけよう」という話になる。例えば、Amazonで「以前、買おうかとすごく悩んでいた商品が、セールで安くなっている!あの時はすごい欲しかったし、今の方がお買い得だけど、今は気持ちが盛り下がって買う気にならない!」これは、よくある話だ。人間の感情は長続きしないからだ。対象によるが、欲求は持続性がなく瞬発的だ。「欲しい!」となる前に、無理にセールスしてしまったり「欲しい!」タイミングで、クドクドと商品説明してしまったりすると、例え良い商品・サービスでも売れなくなってしまう事がある。適切なタイミングでセールスを行うこと。これがポイントになる!

 営業の世界でよく言われていることだが、立て板に水のように話す営業より、ポイントだけ話す一見寡黙な営業の方が優績者が多い。立て板社員の方が優秀そうだが、実は反対な結果になる事が実務で証明されている。単なる多弁な社員にすぎない、ウザったい社員は顧客からは嫌われるのだ。これは自分の知識不足を糊塗する社員に多く見られる。しゃべりまくることで相手からの質問を出させない防御姿勢に等しい。顧客の選択権に介入しすぎるし、購入意欲を削がれることになりかねない。まとわりつかれて好印象を持つ顧客はいないはずだ。言葉は相手に拘束性を持たせる力がある。息を吸い込みすぎるとかえって苦しくなる過呼吸症状と同じだ。これも勿論、自社のビジネスのお客さまの属性、競合の存在によって正解は異なる!シツコサを熱心さととってくれる顧客もいるし、立て板に水を流す話し方をする社員を、うっとりととらえる顧客もいる。煙に巻かれるという状態だ。霊感商法や暗示商法にも言える。更に催眠商法や不安商法も心理的な暗示を利用して消費者の購買意欲を高める代表的な例といえる。いずれ正攻法ではない。売上をUPさせる「想起のタイミング」「適切なタイミングでのセールス」の正解は、その会社によって千差万別だし、その接する社員の拠るところが大きい。

 「2つの施策の正解」を導き出すにはマーケティングの思考が欠かせない。「マーケティング」というと「大手企業がやっているような高尚で小難しいもの」をイメージされるかもしれないが、成果を出すために必要なのは、その基本となるシンプルな考え方の部分だ。これさえつかめば、自社のビジネスの集客と、売上を伸ばす近道が、分かるようになる筈だ。欲しい時に欲しいものが手の届くところにある事だ。そして閾値にある顧客の感情を後ろから押す社員が必要だ。想起するだけでは行動には移らない。それは別次元の課題になる。
 購買意欲は、このように「必要だから」だけでなく、感情的欲求によっても動かされるのだ。感情的欲求には、安全安心欲求、快適さを求める欲求、承認欲求、所属欲求がある。顧客の買いたいを引き出すには、感情、社会性、タイミング、価値遡及、の4軸が重要となる。上記を満たす購買意欲の刺激方法として言われているのは、ビジュアルな心理的効果を演出する様々なアプローチになる。「今だけ」「先着100名様」などの希少性を強調したり、実際の顧客の声を見せる事で、信頼を獲得する口コミ、レビューの活用、商品がもたらす理想の未来を描き、感情に訴えるストーリーテリングがある。それらを踏まえた、季節、イベント、ライフステージに合わせた訴求が効果的になるようにタイミングの最適化が重要だ。

 商品を売り、買ってもらうというビジネスだけでなく、我々賃貸管理業にもタイミングは必要だ。顧客に評価されるタイミングは何か?という事だ。特にルーティングで業務を行っている社員には注意が必要だ。既定のラインを疑問なく処理していることが多いからだ。それが彼らの正当性の根拠にもなり顧客視点が欠落しやすい。いわゆる仕事ではなく作業をしているに近い。これだと競合他社との差別化は難しい。すぐマネができるからだ。
 商品で差別化が難しい業種として、ガソリンスタンドや、銀行等がある。商品で差別化ができないなら、サービスという付加価値で差別化を図るしかない。賃貸管理業も同じだ。それは「スピード」と「正確さ」だ。意外と簡単そうな事だが10年、20年とお付き合いする中では、余程留意しないと評価されないし守れない。全社で組織的に取り組まないと絶対にできない事になる。管理戸数が1000戸位、オーナー数50人だと社長がすべてに目が届き、問題点や苦情に即対応できるが、3000戸以上、150人になると、社長だけでは細かい内容に対応できなくなる。現場から距離が離れるほど危機感が薄れる事になる。顧客の不満や痛みが自分事としてとらえる事ができなくなるのだ。部下からの情報も間接的になりかねない。訪問するべきタイミングや、処理するべきタイミングがずれる事になり、顧客の不満はより大きくなり、取り返しのつかない事態になりかねない。
 賃貸管理企業には個人商店レベル(社員数10人以下)、小企業レベル(同30人)、中企業レベル(同100人)、大企業レベル(同300人)がある。これによく軍隊の例を持ちだすことが多いが、学ぶことが多い。役職と階層も明確になっており、役割に応じた責任と権限も明確だ。個人プレーよりチームプレーを重視した組織だ。更に軍隊組織は常に「死に直面」しており、指揮系統のまずさや連帯の意思疎通、兵員の士気で戦果が変わるからだ。一方、会社組織は死に直面することはあり得ないし、責任転嫁も様々な理由付けが可能だ。それから言えば、自から会社組織は甘いという事になる。最近では会社組織を機能集団と考える事が忌避され、目的追求が疎かになっている。言葉を変えれば社員に甘い組織になっている。パワハラが軍事組織の中でも取り上げられるようになった時代の激変に戸惑うばかりだ。そのまま推移すれば戦闘集団としての機能はなくなるだろう。

 電通の「鬼の十訓」がマスコミの批判の的になったのは記憶に新しい。我々昭和の営業に育ったものから見れば、当たり前の社訓だが令和の時代にはそぐわないらしい。過去30年国内の景気が低迷し、GDPが中国、ドイツに抜かれ世界4位になった遠因がこれではないだろうか。競争を忌避した資本主義社会は理論的にあり得ないはずだ。弱者に目を向ける事は必要だが、それは企業の責務ではなく社会全体のセーフティーネットの問題だ。つまり政治の問題になる。かつて民主党の政権時代の事業仕分けで某議員が、2番ではダメなのか?と詰問したが、国内景気のていたらくを招き、IT部門でも中国に抜き去られた。1番を目指すから競争原理が働くのであって、初めから2番を目指すことは競争を否定している事になるし、そもそも2番になれるか疑わしい。
 1番を目指したが努力の甲斐なく結果的に2番になったのだ。

   アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員   三戸部 啓之