349号-2026.10

[ 2026.10.1. ]

349号-2026.10

 「部下が動かない…」「指示通りにやってくれない…」「こちらが気をつかっているのに…」 こんな悩み、リーダー職にあれば誰でも持つはずだ。中小企業では、社長やリーダーの影響がそのまま社員に響く。けれど、思うように人が動かず、ついイライラしてしまうこともあるかもしれない。しかし、経営の神様と言われた、パナソニック創業者松下幸之助は、そんなリーダーたちに対し、ある“助言”を残している。松下氏が語ったのは、「上司の一番の仕事は、部下に“ええ仕事”をさせることや! 偉そうにしたり、ケチをつけるのは仕事ではない! 部下に“愛嬌”がない上司は失格や!」これは組織のトップを担う者が、もっとも忘れてはならない姿勢である。実際、松下氏は「人を生かす心得」として、102項目を挙げている。その中で、最も大切な要素として後から付け加えたのが…「愛嬌」である。

 昭和的価値観である「上司は偉くあるべき」「リーダーは強くあれ」そう信じてきた方ほど、ギョッとするかもしれない。しかし、令和の時代では、社員の能力を引き出し、やる気を高めるには上司自身が“愛嬌”を持ち、人間味で関わることが不可欠だという。特に叱られた経験の少ない若者には注意が必要だ。なぜなら、「人は論理より、感情で動く」からである。つまり、正論や過去の成功経験が通用しないわけだ。「ええ仕事」は本人の成長につながるものだ。松下氏の言う愛嬌とは優しく見守る事だと思う。「感情で動くのはわかったけれど部下をどう動かせばいいのか?」と思うかもしれない。事実、愛嬌で心を開かせても、具体的にどう動けばいいかを伝えなければ、部下は迷ってしまう。愛嬌とは国語辞典的意味では「人に好感を持たせるにこやかさや、かわいらしさ」のことである。だから失敗や多少の欠点があっても、可愛らしいから許せてしまう事になる。だから、あらゆるコミュニケ-ションには大切な要素となる訳だ。

 同じような表現で「愛想」という言葉がある。愛想は相手を良い気分にするための意図的、一時的な対人スキルであるが、愛嬌よりは自然で、長期的な信頼関係に結び付きやすいといわれている。「愛想笑い」はその場の雰囲気を和ませたり、人間関係を円滑にしたりするための好意的な笑いと解釈されるが、同じような笑いでも「追従笑い」のように相手の機嫌を取り、気に入られようとして無理に相手に合わせる笑いは、あまり好意的に解釈されることは少ないのではないだろうか。しかし具体的なシーンでの判断になると中々難しい。どちらも「心から面白くて笑っているわけではない」からで、強いて言えば、その動機が「親切心、マナー」か「損得勘定、へつらい」かによって使い分けるしかないようだ。ゴマすりかどうかはその表現された態度から判断される。

 実は、ここで“もうひとつの武器”が必要となる。それが【言語化】である。社長自身は、経験から学び「こうすれば売れる」「こうすれば失敗しない」と感覚で分かっていることが多いだろう。しかし、それを社員にうまく伝えられなければ同じミスが繰り返され、結果は出ない。

たとえば、あなたの中にある経験則

・どのタイミングで営業すべきか

・お客さまにどう伝えれば響くのか

・値引き交渉をどう切り返すか

こうした“あなたの武器”を社員にも共有するには、「言語化」が必要になる。あなたがこれまでに積み重ねてきた経験で「どんなタイミングで営業をかければ成果が出るのか」「こんなお客さまには、こう伝えた方がいい」そんな“売れる感覚”を言語化して社員に伝える【マーケティング組織】を作ることで組織全体の売上は一気に伸びるはずだ。

 何処の企業でもマンツーマン指導やロールプレーイングで実践的に教育していると思うが、成果追及に厳しい企業では、社員の対応も真剣だが、そうでない企業では如何に社員に定着させるのかが課題になっている。競争心のない社会で育ってきた若者には、なかなか理解できないのが現状だ。研修一つにしても「やらされ感が強く」自分のスキルアップに必要とは考えが足りていない。

パワハラの叫ばれる昨今では強い指導もできず、研修側も腰が引けているのが現状だ。弊社でもこうした研修を実施しているが、どうも受け身の受講態度が目につく。研修内容も新卒を対象にした「3年間退職させない内容」をメインにしたものを実施しているが、昭和の時代には考えられない研修だ。送り手先である大学側も企業推薦の項目の一つとして「入社3年間の退職率」を基準にしているので、ブラック企業の烙印を押させないために、企業側もそれに応じた研修を取らざるを得ない状況である。考えてみればおかしな基準で、応募側が求めている基準の本音は年間休日数が多い、残業がない、給与が高い、福利厚生がよい、なので、それに応じたものを提供しなければ面接はおろか、採用は望めない。勿論、就職指導で面接のロールプレイを実施している大学も多いので、採用側に意欲を伝える質問も徹底的に用意されている。

 例えば「私が企業選びで最も重視しているのは、若手が挑戦できる成長環境です。大学でのプロジェクト活動を通じて、裁量をもって動くことで大きく成長できた経験があり、社会人でも同じ環境で力を伸ばしたいと考えております。御社は若手にもプロジェクトを任せる文化があり、研修制度も充実している為、私の軸と最も合致していると感じています」と応答するのが多くみられる。面接する方も本当かな?と思いつつ、是認する事が多いだろう。しかし、その立派な応答とは異なり、研修に入ると居眠りをしたり、休憩時には遊びの話に興じLINE交換したりする新卒社員が見られる。勿論少ないながら、面接時の応答の通り真剣に取り組む社員もいる。採用側から見てもこういう社員こそ、将来が期待できるとホッとする。しかし、大多数の新卒社員がそうした気持ちが薄い中では、何とか社会人としてのマナーや姿勢を持っていただくよう、疑問を感じながら研修に取り組んでいるのが現状である。このような新卒社員を「お客様扱いする」のが当たり前のようになった時期もあった。

 移民が増えグローバル化している社会では価値観や習慣が相違する人々が存在する。ましてこのような移民に対して参政権を付与しようとする動きも出ている。少子化の国内で「働くな法案」の中で残業禁止、休日付与の根拠法規の労働基準法他関連法規も、異民族が増え参政権を付与するようになれば急激に変わる可能性がある。そうなれば「働くな!」から「働け!」に代わるのだ。このようなコペルニクス的転回の社会状況は歴史的に見て起こりがちだ。約180年前の明治維新の時も幕藩体制から尊王攘夷と社会基盤が激変したし、80年前の大東亜戦争後、鬼畜米英から米英同盟と一挙に変わった。そのような時に、甘い時代に生きる今の若い人たちは淘汰されるのは間違いない。GDPの推移を見てもそれが予見される。1980年には中国約0.3兆ドル、日本約1.1兆ドル、インド約0.2兆ドル、それから約50年後の2023年には中国約19.3兆ドル、日本約4.4兆ドル、インド約3.7兆ドルで、今後さらにその差は広がるだろう。これから見ると1990年代以降日本の国力が停滞していることがよくわかる。その原因としては、バブル崩壊後の後処理の遅れ、デフレの定着、構造改革の遅れ、少子高齢化という複数の要因が重なったためと言われている。

 日本の経済成長に必要な政策軸の一つとして、人口減少、少子高齢化への真正面からの対策が挙げられている。つまり高齢者、女性、外国人など多様な人が働きやすい労働市場の改革だ。小国スイスの例が参考になるだろう。スイスは2000年に約720万人だった人口が2025年に約910万人まで増加した。早ければ2035年に1000万人に達するとの予測もある。人口増加の要因として、現在の人口の3割近くを占める移民の存在を上げ、人口が950万人を超えた場合は、外国人の移住申請などの条件を厳格化するような動きがある。人口制限による産業への影響を危惧していたスイスの主要経済団体も歓迎している。それほど異文化の人々が混在する社会は、いろいろなリスクがあると言うことを裏付けるものだと思われる。ましてや、移民に対する参政権の付与は、より問題を複雑にする懸念がある。 一部にみられる競争心、自立する力のない国民は間違いなく淘汰されるだろう。国力を上げるには、国民が良い結果を出したいという意欲と情熱が必要だ。良い結果を出すために良い緊張感があり、本気で叱咤激励しあう。進んで協力し合うのが本来の姿である。仕事の結果よりも、居心地の良さを優先した甘いだけの馴れ合いの中では、成長は望めない。

 昭和40年代の高度成長期を支えた親父たちの生き方や仕事ぶりを「昭和の昔話」として唾棄するのではなく、振り返る事も必要なのではないか。

     アーバン企画開発グループ相談役/合同会社ゆいまーる代表社員 三戸部 啓之