294号-2022. 1

[ 2022.1.1. ]

294号-2022. 1

今年度も前回と同様、10月17日と12月19日と2回に分けて宅建試験が実施され、10月の第1回試験結果が12月1日発表された。第2回試験結果は2月9日になる(因みに当社受験者は1名)

当社の受験対象者は41名(内1名は無申告)、合格者は3名、合格率は7.3%だった。全国平均の合格率は17.6%で、それに比べ当社の合格率の低さが残った。その中に2021年度入社の新卒が8名(1名は入社前に合格)いたが、合格者はいなかった。ある管理会社では新卒入社は60%の合格率だということを聞き愕然としたものだ。いかに当社の受験指導体制が拙劣だったのか考えさせられた。


今回は3つのグループに分けた。
Ⅰ:入社4年以上の社員25名、Ⅱ:入社2年~3年の社員7名、Ⅲ:今年入社の8名の社員だ。
それぞれに責任者が付き指導する事にした。結果はⅠグループが2名(1名は無申告のため除外)、Ⅱ、Ⅲグループはゼロだった。私がⅠグループを担当した。

振り返ってみれば、昨年の4月から対象者に宅建合格管理表を自主的に作成させた。これは10月の試験に向けて自主的に合格へのスケジュールを立てさせ、それに即して行動し自ら律する事を期待したものだった。実施項目も月3項目とし数量的に点検できるものとした。その期間に模擬テストを3回実施し、その得点如何により、都度自分の合格管理表の実施項目を見直すようにしていた。

計画実施率は平均70%で最低50%、最高90%だった。その中で自主的に受験予備校に通った社員は皆無だった。合格した先輩から情報を入手していた社員は「過去問のみ」徹底すれば良い、という言葉を信じていたようで、模擬試験での過去問は軒並み高得点だったことも、彼らに安堵感を与え試験本番を安易に考えていたと思われる。ところがここ数年の傾向として単なる暗記では合格しないようなひねった問題が出てきた。文章の読解力がないと合格点に至らないのだ。読解力は「内容を理解する力」だが、メール等の短文や略語の会話に慣れている最近の学生は、長文や文章の行間を読み込む力に乏しい。

SNSは同質性の高い集団においてはコミュニケーションを活発化させる働きが強く、立場や意見が違うものを排除する閉鎖性が強いツールであり語彙力や冷静な判断力が失われやすい。

新井紀子著「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」によると語彙力が低下している原因は、①正しい日本語に触れる機会がない、②正しい日本語を使わない、③覚えない、④知らない、とされる中で読解力テストとして以下の問題が出ている。

問題:Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。
Alexandraの愛称は【 Alex ・ Alexander  ・ 男性 ・ 女性 】である。

驚くことに、中学生正答率は37.9%、高校生正答率は、64.6%だったらしい。大学生の思考力が足りないのは、教科書を読める能力を身につけないまま大学に入学している学生が多いからだと指摘している。

「中学校を卒業する段階で、約3割が内容の理解を伴わない表層的な読解もできない、学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない・・・」という事らしい。

当社の社員のレベルもこの程度なら問題だ。来年度入社テストは読解力テストをはじめ、時間はかかるが、内容を要約させるとかの読解力の訓練も取り入れたいと考えている。

 

資格取得には、3つの重要な要素がある。目的、使命感、見通しだ。目的と目標は違う、目的は何のために「宅建」を取るのか?と言う事になる。使命感は「宅建」を取って、何をしたいかである。

当社でもきちんと内規で決められた勤務年数の中で宅建を含めた「所定の資格」を取得している社員はいる。彼らは「決められたことは先ずやる」という使命感が明確だ。弁解はしない、義務を果たしてから自分の要求を言うタイプだ、昨今の権利の主張は大きいが、それに伴う義務は糊塗する若者とは向き合う姿勢が違う。まず、使命感有りなのだ。

今回、1~2年生の中で、絶対に合格すると考えられていた社員3人が不合格になった。聞けば口を合わせて「合格しても目的が理解できなかったので、真剣になれなかった」と述懐していたのを思い出した。宅建支援の今年の課題として残ったが難問だ。モチベーション維持には強制、利益・不利益誘導、承認・礼賛の3つがある。それに使命感を如何に結びつけるかだ。使命感があれば目標と見通しができる。彼らに共通するのは「素直な人 ・まじめな人 ・勉強熱心な人・向上心がある」などだ。しかしながら一つだけ要因を上げろと言われたら 「私はこれをやりたい!」という明確な目標を持っていない事だ。

例えば、ダイエットで 、「最近太ってきたのでやせたい」 Aという人と「このドレスをクリスマスに着たいので 12月までにあと3キロやせたい」 Bという人がいた場合、ダイエットに成功する確率が高いのは後者のBだろう。『理由:このドレスをクリスマスに着たい、 期限:12月まで 、目標値:3キロやせる』がハッキリしているからだ。これに対して前者Aの場合は『なんとなくやせたい』という感じなので、なかなか上手くいかない。

仕事である以上期限を決め、やったかやらないかが分かる目標を定める必要がある。この目標は必ずしも数字で設定する必要はないが、やったかやらないかが誰が見ても同じであることがポイントだ。 先のダイエットの例で言えば 『3キロやせる』というのは誰が見ても同じ結論になるが、『なんとなくやせる』では、「体重を減らす・腹囲を小さくする・体脂肪率を落とす」など、基準が曖昧なのだ。このため、Aは「自分は頑張ってやせた」と主張しても、第三者であるCからは「ぜんぜん前と変わっていない」と指摘されることにもなりかねない。

もし「最近いま一つ仕事で成果が出ていない」と感じているなら、まずは主体的に明確な目標を定める事が必要だ。
最初のうちは「今日中にこの資料を仕上げる」というような小さな目標でも全然OKだ。そして、自分で立てた今日の目標がある程度達成できるようになれば、1週間後の目標を定める。その目標から逆算して今日の行動を決める。自分の決めたことを今日やる。というように、ちょっと先の未来の明確な目標を定める。
着眼大局、着手小局。ビジョンやミッションなど大きなイメージを掴んだ後は「今日やるべき小さなことにいかに集中して取り組めるのか」が鍵となるはずだ。

この試験のように長丁場の勉強時間が必要となれば、小さな達成感がいくつかないと持続が難しい。今年度実施した合格管理表はそれを踏まえたものだが、効果はなかったようだ。 だとすれば「宅建を取得しなければ不動産業務につけない」でもない限り、単なる「重要事項説明ができない」くらいではあまり意味がないともいえる。
取得しない要因はそれが大きい。無免許運転でも罰則なしで走れるなら、誰も苦労して取得する誘因にならない。無資格者と資格者の違いは担当する業務の責任の重さだ。顧客に対する背信行為でもある事を銘記すべきだ。それを長い間言い続けてきたが、「やる気がないならやめろ!」なんて言葉を言えば、すぐに「パワハラ」だという世の中になった。
東証一部大手不動産会社のT社やM社のように、所定の年限に取得しない社員は不適格社員として辞めざるを得ない雰囲気があるらしい。この妙手があれば教えてほしいものだ。
不動産会社である限り宅建合格はゴールではなく出発点だという事を徹底したい。

                                                                                              会長  三戸部 啓之