305号-2022. 12

[ 2022.12.1. ]

305号-2022. 12

 新型コロナウイルスの終息が見えない。ここ数年、コロナに始まりコロナに終わっている。その閉塞感は経済のみならず雇用環境にも及んでいる。

今年の前半にいったん終息すると思われたが、7月からオミクロン変異株が猛威を振るい、新規感染者が26万に迫る第7波になった。今回のオミクロン株は、症状や重症化・入院の割合、感染力など従来の新型コロナウイルスとの違いが報告されて、ワクチンの有効性も疑問視されている。当社でも3回ワクチン接種者の感染例もあったが、幸いにも重傷者は皆無で感染後7~10日以内に職場復帰している。ただ懸念されるのは後遺症だ

 2022年7月には、オミクロン株の系統で「BA2」「BA2.75」「BA4」「BA5」「XE」と呼ばれる変異ウィルスが注目された。2022年6月に神戸で初めて確認されて半年で全国に広がったほど従来よりも感染力が強く、政府は第4回のワクチン接種を呼び掛けた。ワクチン接種率も強制力がないため11月23日現在1回目81.4%、2回目80.4%、3回目66.8%と低迷した。ワクチン接種も変異スピードが速いため、集団免疫ができるまでに新たなウィルスが出現しイタチごっこの様相だ。抜本的な治療薬の投与まで終息の目途は立たないだろう。そして現在、第8波の大波がそこまできている状態であり、新株のワクチン接種が急がれている。

 全国で8月19日、新型コロナウイルスへの新たな感染者が261,004人と過去最多を更新した。WHOが8月17日に公表した集計によると、8月8日から14日まで1週間の新規感染者は日本が139万5301人となり、4週連続で世界最多となった。次いで韓国が86万人、アメリカが67万人となっている。新規感染者数は前の週に比べて7%減ったが、日本は世界全体のおよそ4分の1を占めている。

 2020年コロナ感染初期、日本が世界で一番感染者数が少ない理由として、日本人の手洗い等の清潔感やハグをしない習慣などがマスコミ紙面に踊った。その3年後には、厳しい現実を突きつけられ当のマスコミも沈黙した。国民の優越性を強調し、ある一定の方向に誘導するマスコミの悪しき体質は、大東亜戦争に結び付いた時代背景と変わらない。

 10月2日には、一日の感染者数が29,496人とピーク時の1/10に激減した。政府も当初と違い、臨床データが集まり対処方法も以前のような行動規制をとらなくなった。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいた緊急事態宣言および蔓延防止等重点措置にとどまり、あくまで国民の自主性を重んじる措置になった。行動規制自体は法的不備もあり様々な意見が出たが、結果的に緊急事態条項制定と憲法改正まではいかなかった。7月14日にはその行動規制も原則とらなくなった。併せて濃厚接触者の待機期間も検査で陰性なら3日間に短縮した。10月には入国者の上限も撤廃した。

 政府部内には知恵者がいるものだ。従来のコロナ感染者数を毎日のように報道していたが、かえって国民の不安を掻き立てるだけだとして、8月18日の各新聞報道によると「すべての感染者を特定する全数把握の対象から除外する」方針を固めた。指定された一部医療機関だけが患者発生を報告される方向になった。その理由としては保健所や医療機関の負担軽減だが、対象患者を限定した場合は重症化率の把握が困難になり、全数把握を止めた場合、患者の症状悪化をどう察知するかが問題になる。80年前の大東亜戦争時の「大本営発表」と同じだ。戦果を誇張し、被害を矮小化する。国民には正確な情報を開示しないため、本土決戦まで引きずり被害を大きくした。

 今回は経済の浮上が最重点課題で、巣ごもり消費からの脱却を図り社会生産活動の活性化を狙っている。有効なコロナ抑制策もない中で、コロナ感染者数は未曽有の増加になった。これを甘ぬるいとしてゼロコロナ政策をとる中国の専制主義国家を礼賛し、民主主義を否定する動きがある点は、注意しなくてはならない。

 民衆支配はさまざまな部品からなる。1つは、異質な考えや利害を持つ人々や組織が政治に参入でき、互いに競争したり交渉したり妥協したりしながら過剰な権力集中を抑制する仕組みだ。これを象徴するのが執行/行政府(政府)・立法府(国会)・司法府(最高裁)や無数の監視機関への権限の分散だ。もう1つの部品が選挙になる。自由で公正な普通選挙を通じて有権者の意思(民意)が政策決定者を縛ることで、民衆が支配する。横から監視し、下から突き上げる諸力が憲法に規定され、簡単にはその仕組みが解除できない状態になっているのが民主主義の典型的な形だ。どんな天才もバカも、ビリオネアも無職パラサイトも、選挙で与えられるのは同じ1票。「だってそう思うんだもん」で一発逆転を起こせるのが民主主義の強みであり弱みである。だからポピュリズムに陥りやすいし、利害関係者の調整は必須だし政策遂行も遅速にならざるを得ない。その体現者が「自民党をぶっ壊す!」と言い、ワンフレーズ・ポリティクスを乱発した元小泉首相である。しかし、様々な問題を抱えた制度であるが、元英国の首相であったウィンストン・チャーチルの言葉「民主主義は最悪の政治形態と言われてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」なのだ。

 生産活動の活性化をはかると、今までに隠れていた「死に体の企業:ゾンビ企業」が注目されてきた。ゾンビ企業という言葉がこの世に生まれて四半世紀経過した。生み出したのは、バブル崩壊後、企業の過剰債務と金融機関の不良債権問題がもはや解決不能と思われるほど重くのしかかった90年代後半の日本だ。

 ゾンビ企業とは「実質的に倒産状態であるのになお営業継続している企業をいうが、対外的に支払うべきものを支払わない」債務不履行の状態が続いていること、バランスシート上においては累積損失によって債務超過の状態にある事(帝国データバンクによる)をいうが、2010年代後半以降10%前後で推移してきたものの、2021年度は12.5%に達する(帝国データバンク予想)コロナ禍の緊急対策である「ゼロゼロ融資」がその一因となっている。2021年度は参考値だが18.2万社で、前年度比10.3%増と明らかに増加傾向にある。原因は明確だ。中小企業金融円滑化法が平成25年3月末をもって終了した。金融危機、景気低迷による中小企業の資金繰り悪化等への対応策として貸し付け条件の変更等を認めるリスケを実施したからだ。抜本的な企業構造の改革、売上増加策等もないまま、支払い条件の猶予だけでは早晩行き詰ることは予測されていた。死に体企業に一時的なカンフル注射を施しても延命措置になるだけにすぎなかった。加えて不正受給も発覚した。

 経済産業省が新型コロナウイルス対策の一環で実施した補助事業で455件、計1億円相当の不正受給があったと報道された。事業は2020年9月から22年1月に中小企業基盤整備機構が実施した「中小企業デジタル化応援隊事業」で、一企業ごとの補助上限は30万で17245件に支給した。199件5000万円相当が返金されているが、未返還分についても返還を求め、必要があれば警察にも告発すると報道されている。支給基準のお粗末さが、中小企業診断士等のビジネスチャンスとしてとらえられた経緯もある。もらえるものは何でももらおうとする風潮は企業マナーと相いれない。福沢諭吉の「やせ我慢の説」ではないが、苦しいけど知恵を絞るのが経営者だろう。

 倒産は世間から不要と判断された結果であり、事前兆候があれば潔く手仕舞いするのもマナーと言える。勿論経営者の逃げ得は許されない。従業員の行く末を全財産をもって補填する矜持が必要だ。

                           会長  三戸部 啓之