304号-2022. 11

[ 2022.11.1. ]

304号-2022. 11

会社はお客様に喜んでいただくことで売上が上がり企業は存続する。

この原理原則に基づけば、日常の仕事の中で「お客様との接点を増やす」「お客様に有益な情報を提供する」「お客様のことを考える」時間が増えれば増えるほど、売上が上がる確率は高まるはずだ。

しかし、実際には、「社内の会議や打ち合わせ」「上司への報告」「社内における根回し」など、社内に向けて多くの時間と労力を使っている。さらに営業社員は風雨にさらされ、事故の危険もある。訪問の手間暇を考えると生理的に出不精になりやすい。営業社員を抱える企業は様々なインセンティブを付与し外出を奨励する。我々のような中小企業でも行動管理という手法が根付いている。

営業でいえば、訪問件数、面談件数、提案件数、夜訪件数がそれにあたる。個々人によりその件数は異なるが、成約件数からプロセスを逆算して目標を立てることになる。つまり、一件の成約に〇件の提案件数→それをするために〇件の面談件数→〇件の訪問件数となる。一般的に受注活動時間割合は70~80%、社内事務処理時間は30~20%が優秀営業社員の目安とされる。こういう指標を設けることで各自の行動管理の目安としている。

ところが、実態は当社も含めて反対になっている。社内事務処理時間が80~90%、受注活動時間が10~20%で、しかも新規開拓どころか社内紹介やお取引がある顧客の中でも行きやすい、歓待してくれる顧客にしか行かなくなっている。これでは行きにくい顧客とは永久に遠ざかることになってしまう。行きにくい顧客にこそ通うべきで、ファンになってもらう必要がある。そこで、当社では顧客からの紹介件数を重視している。顧客からの紹介があれば、営業社員との関係と当社との関係も良好だと判断できるからだ。

営業社員の成果方程式は、成果=(知識・経験・能力)×行動量×意欲 でどれが欠けても成果はゼロになる。他の部門のような他部署から仕事が流れてくることはないから、自分で作るしかない職種だ。当社では営業部門は利益を作る部門、事務は利益を守る部門と位置付けている。営業部門はゼロから生み出さなくてはならないから、それだけにしんどい職種でもある。

コロナ禍で非対面が当たり前になってくると、この伝統的管理手法も変化してきた。PUSHからPULL型への変化だ。

こちらから出かけていくのではなくお客様に来ていただくようになった。その誘因方法はセミナーや相談コーナーの設置、アンケートDM等だ。お客様もその企業を訪問することで会社の内容がよくわかるという利点がある。対面しなくともプレゼンはZoomですることも当たり前のようになり、益々会社にいる時間の多寡ではなく中身の問題になった。

宅建業法の改正で2022年5月からは不動産の電子契約も可能になった。不動産の売買や賃貸契約が非対面で可能になったのだ。今後、不動産営業職はパソコンの知識が必須となり、その表現方法如何が成果に直結する。従来の外勤職、内勤職の区別もあいまいになってくる。今までのような事務職募集には多く応募者が来るが、営業職への応募者も増えるかもしれない。

営業職は自分自身を鍛えるには最適な職種と考えている。営業の醍醐味とは、勤める企業を自分が支えていると実感ができることだ。売り上げもしかりだが、お得意先からの評価が自分に自信を与え、顧客から教えられ学ぶことも多い。それが自らの血肉となり成長を実感することができる。毎月の締めが時間管理をきちんとさせ、自分の損益が明確になる職種であり、厳しい中にも充実感がある。

四季を感じ、様々な顧客にあえる事は営業職しかできない素晴らしさだ。特に仕事で顧客に「あなたに知り合えてよかった!」というお言葉を得られた時の気持ちは何とも言えない充実感に満たされる。

巷間でよく言われる「ノルマ」は自己の挑戦ハードルだ。それの到達、未達が自己の点検になり、成長にも寄与する示唆だ。中途半端では務まらない職種だが、営業OBは必ずいう言葉がある。「厳しかったが充実していた」とよく聞くが、本音であろう。もちろん、内勤職も企業にとっては重要だ。経理や総務など社内向けの仕事をしている部署もある。 けれども、お客様と直接関わる営業だけでなく営業事務や経理、工事部門も含めて社内で社内向けに割いている時間はかなり多い。 特に複数の部門にまたがる案件については、お客様の事情をそっちのけにして 「それはウチの仕事じゃない」「これはオタクの部署が責任を持て」というように、仕事の押し付け合いで「誰が、何を、どうする」を決めるのに延々と時間を使うことがある。

問題なのは押し付け合いをしながら、その改善策を怠ることで、毎回同じようなことが起きることだ。評論家のように指摘するだけで自ら改善の先頭に立たないことだ。この手の社員が一番困る。本人からすれば自分の仕事は完ぺきにしているので他人からとやかく言われる筋合いではないと傍観し、仕事を完結する責任を感じていないからだ。部分最適で満足し全体最適を考えていない。全体最適を考えるのは私ではないという位置づけだ。

この手の社員は意外と優秀な社員が多く、「もう一歩踏み出せば!」と思うが彼らはその気が全くない。自分に降りかかった火の粉は払うだけだ。自分のパートは完璧にこなすから、所属のリーダーも黙認している。彼らに共通しているのは、押しなべて権利意識が強いことで、頭の回転も速いから扱いづらい部下ということであろう。しかし、会社にとって大切なのは「お客様が喜んでくれる」 →「そのことでお金を会社に払ってくれる」ということだ。

社員の個人的な都合や各部署の役割分担がどうなっているのかなどは、お客様にはまったく関係がない。しかし、現実問題として「自己部門第一主義が通り」、「声の大きい拠点長のワガママが通る」、「川下工程に関心がない」、「一部の部署や人に過大な負担がかかる」、「お客様にも余計な手間をかける」といったことが生じている。ウィズコロナで残業時間に制限がかかると余計その傾向が強くなった。

自部署だけが済めば後は知らない風潮になったのは残念だ。会社における売上の源泉は社内ではなく、社外にいるお客様だ。よくよく考えてみれば、当たり前のことだが、そのことが社内に身体的浸透しているのはごく少数派だ。 国語辞典的意味では理解しているが、実際の行動に表せないのだ。これも(知識・経験・能力)×行動の成果方程式に当てはまる。

社内での勢力争いに時間と労力を使うのは愚の骨頂だ。業務フローを見直す時も、社内で役割分担を変える時も「お客様に最大のベネフィットを提供するには、どのようなやり方が最適なのか」を判断基準にしなくてはならない。

時短が当たり前になっているが、業務の手抜きが奨励されているわけではない。無駄な時間を排し業務効率を上げることが前提になっている。

中小企業でも組織で動いている。個人商店ではない。組織としての責任や成果を問われている。だから、個人としてではなく、自部門から川上、川下工程に配慮しなくてはならないのだ。

先日もある社員が、会社から言われた資格や経験を具備しているが一向に昇進しない。「どうして私は〇〇になれないのでしょう?」と言ってきたが、組織としての位置づけと職位に応じた責任と範囲を説明した。腹の底から理解したかどうかは不明だが、この手の社員は多く、不満を持っているのだろう。

面と向かって疑問をぶつけた社員はまだ良しとしよう。水面下でこの手の不満を持って悶々としている社員に対してどうするかも経営課題だ。対応の仕方では退職に直結するので、人材の枯渇にもつながる。

元々ある意味で優秀な社員なので、遅ればせながら「アーバン保健室」を開設した。「傾聴研修」を受けた社員を相談員として配置し、相談に乗ろうという試みだ。その成果に期待したい。

 会長 三戸部 啓之