312号-2023. 7

[ 2023.7.3. ]

312号-2023. 7

文化庁の平成30年度「国語に関する世論調査」によれば、16歳以上の個人で1ヵ月に1冊も本を読まないと言う人が47.3%、3冊以上読むと言う人は15.0%しかいない。本を読まない人は平成20年47.5%、平成25年度46.1%と大体同じだ。最近ではメールで仕事を進める場面が増えた。顔を直接合わせることなく、仕事が終わるということも珍しくない。

 

しかし、意図が伝わらず、質問回答のやりとりが何往復も続くことがある。また、事前に運営マニュアルをメールで送っておいたのに、当日トンチンカンな行動をされるという場合もある。そういうストレスが積み重なると「もういいか!この人に依頼すると、逆に手もかかるから頼まないでおこう」と思う瞬間が来る。伝えることを諦めてしまう。

依頼するのを止めるとき「あなたはメールやマニュアルを読んで、理解する力がないので、もう仕事を頼みません」などと言う事は、わざわざ相手には伝えない。そっとフェードアウトする。大人は笑顔で去っていく。当の本人は、なぜ依頼が来なくなったか、されたかは気づいていないはずだ。本人の気づかぬうちに読解力が原因で、仕事やチャンスを失っているかもしれないのだ。

読解力を下支えするのが語彙力だ。英単語を知らなければ英文が読めないように、日本語の単語や表現を知らなければ日本語の文章は読めないし理解もできない。最近母国語に関し、この点を軽んじている人は教育関係者に多い。

日常会話、しかも、家族や友人などの固定メンバー、同じような年齢のメンバーとの会話だけでは、なかなか語彙は増えていかない。どうしても今使える範囲の言葉で居心地よく会話をするだけになるからだ。王道であり、確かなのは新聞や本を一定量以上読むことだと言われている。

文章では会話より熟語の割合が高くなり、語彙力増強には最適だ。ただし、漫然と文章を読んでいるだけでは、語彙力は少しずつしか伸びないはずだ。成長を速くするには、言葉を調べたり、メモをしたりすることの習慣が欠かせない。要は受け流さないようにする事だ。

量が質を作る。読む力は、ある程度の量の文章を読んでこそ培われる。読書の場合、量を読まずして断片的文章や見出しだけを読んだとして、それを十二分に理解するというのは不可能だと思う。たくさん読んで、その経験の中で語彙を増やしたり視野を深めたりすることが大事になる。

子供の時の読書指導のイメージから、「読書=小説を読む」というイメージがある人もいるかもしれないが、多様なジャンルの活字に触れることを心がけるとトータルの読書量が多くなる。そのためにはいつも何冊も持ち歩くようにしたりして、その時々の気分に合った本を読むようにし、トータルの読書時間を伸ばしていく。論理的な重い読書ばかりではなく、心理的負担の軽いフローの読書も取り入れる。ある領域に疲れたら別の領域に移る。そういう工夫で全体として読書を続けていく状態を作るようにすると良いと言われる。本を身近な友人にすることだ。

 

読解力を培う上で、自分でも文章を書いてみる事が効果的だ。実際にやってみることで初めてわかるというものは多い。自分で文章を書くようになると気づくことが増える。どうしてこんな問題を作るのか、どうしてこんな文章構成なのか、自分が振り返るからこそ他の人の文章の良い点に気づきやすくなり、真似できる事が増える。また、文章の表現や工夫が感じられるようになる。文章を書くのにどのくらい時間を費やすものなのか、どれだけ悩むものなのかを実感できる。そうすると、他人が書いた文章に対するリスペクト(尊敬、尊重)の気持ちも出てくる。その人がどれだけ手間暇をかけて書いたのか想像すれば、条件反射的に拒否反発するような態度は取らなくなるはずだ。

 

そうやって何とか理解しようという思いで、文章に向き合うことが読解力の出発点であり核心なのだと思う。現代人は確かに文章を目にしている。ただ、多くの人が読解力に欠けたまま、文章の洪水に触れている状態なのだ。

昔から文章を読むのが苦手な人がいたと思うが、現在はその苦手が、課題やトラブルにつながりやすい時代になっている。ニュースの勘所を読み誤り、的外れなコメントをSNSに書き込んで、非難嘲笑をされる人がいる。あるいは支離滅裂なコラムやまとめサイトの文章をそのまま信じ、陰謀論などの偏った考えに凝り固まっていく人もいる。読解力があれば、どちらの問題も生じないはずだ。
実際、文章を読めないまま大人になると、子供の時以上に困ることがたくさんある。

「依頼や指示のメールを読み間違えて的外れな行動をとってしまう」

「メールの意味がわからずに、何度も質問を繰り返して、相手に鬱陶しがられる」

「資料を読むのが遅すぎて、長時間の残業をしなくてはならない」

「他の人は、事前に渡されたマニュアルだけで理解して動けている中、自分だけが何をしたら良いのかわからず途方に暮れる」

「ろくに読まないで、契約書を書き、後で不利な条件に泣く羽目になる」

「思い込みから感情的に文章を解釈し、人間関係のトラブルにつながる」

このように読解力不足のもとで生じる問題は多い。

 

多くの人が大人として生きていく中で必要になる読解力は、「メールやマニュアルなどの実用的文書を正確に読み取る力」「新聞や雑誌、参考資料から情報を入手できる力」「自己研鑽のための著書を抵抗なく、読むことのできる力」「ブログやSNSの文章を感情で曲解せず、書いてある通りに読む力」などではないかと思う。これを習得することで、読解力不足が暮らしの足を引っ張らないようにすることの方が先決だと思う。

読解力が伸びていくのは、文章と格闘している時間だ。自分が100%理解できるレベルの文章にだけ触れる。そうした生活では、読解力が伸びるチャンスがない。実際、現在の中高校生は検索サイトや、SNS等の利用を通じ文字には良く触れている。それが読解力向上につながっていないのは、仲間内で通じるレベルの言葉や、ネットスラングの使用に終始してしまうからではないか。また、難しい文章に触れていたとしても、読んでいて、難解な部分を無視するとか、わかる単語だけ拾って何となくわかった気になるという態度では、決して読解力は伸びない。壁にぶつかった時に一旦戻る、繰り返し読む、難しい単語を辞書で引く、文章を分解して主たる要素を拾い出してみる。文中の修飾語と被修飾語の対応を確認する、こうした前向きの姿勢が必要だ。手間暇を惜しんではならない。

読解力の観点から読むのをお勧めしたいのは社説だ。思い起こせば中学時代の国語の時間に社説を100字以内にまとめる課題が出された。その時は何も感じなくやっていたが、効果はあったのではないか。社説にはその新聞社としての責任を持って発表する意見主張が載っている。単なる情報伝達ではない。意見は何か、その根拠は何か、現場はどうなのか、それをどうすべきだと考えているのか、それを丁寧に読みとる訓練になる。新聞社で経験豊富な有為な社員が執筆しているから学ぶものは多い。今から考えれば、字数がちょうど1000字程度で意見がはっきり書かれているので、前項の100字要約の練習をするには最適だ。論理的な読解を学ぶという観点では、社説を読むのがお勧めだと理解できる。

会長の独り言306号にもあるが、当社の喫緊(きっきん)の課題として、社員の読解力の涵養(かんよう)のため、さっそく社員に実施している。

以上、「大人に必要な読解力が正しく身につく本:吉田裕子著」「バカと無知:橘 玲著」を参考にした。

                                                                                                                           会長  三戸部 啓之