200号-2014.3.25

[ 2014.3.26. ]

200号-2014.3.25

社員教育は企業の永遠の課題だ。言うまでもなく戦力としてのレベルアップだ。

特に我々のような中小企業には、最大の経営資源は「人=社員」だが、それを生かすには、長期にわたる忍耐強さと投資が必要になる。安部普三首相の年頭所感の中で、日本の未来を切り開く人材育成について「終身の計」と中国の「管子」を引用して重要性を強調していたことが思い出されるが、国家も企業も成長戦略の重要課題であることは間違いがない。  実際、新卒採用にあっても、当社にはまず「MARCH」クラス以上の社員は応募に来ない。だから新卒研修でもかなりの時間を割くことになる。それは基本的な「よみ、かき、そろばん」ができていないからだ。殆どの新卒が、あまり本を読んでいないし、所謂一般教養が心もとない。ここでいう「一般教養」とは巷間で言われる高邁なものではなく、ビジネス話題についていける会話や知識というレベルである。スポーツや娯楽にしか関心がなく、新聞は読まない、ビジネス文章は書けない、常用漢字は知らないでは話にならない。当社ばかりでなく最近の新卒は40年前の中卒か高卒レベルという意見もある。理系でも分数ができないものも居るらしい。それでどうにか許容されている社会は、学歴を軽視し当の本人も無知は恥ずかしいという意識がない。「大学卒だからこのくらいの知識は・・」という意識もないし、「最高学府」という言葉もなくなって久しい。

ビジネスのスタートラインにもまだ程遠い新卒をいかにして戦力化するかは、採用側の責務ということに最近はなっている。当社では新卒入社1年間は研修社員として位置づけ、各セクションを3~4ヶ月で担当させている。その後半年目に「社長面談」を実施し、不満や研修の進捗状況を確認している。12ヶ月後に其の時点での適正と本人の希望を聞き「仮配属」とし、1年後に再度適正や実績を確認して「本配属」にしている。その後も本人の実績や意欲を見て適宜配置換えをしている。

「仲介営業から内勤事務」「アフターからコンサル営業」と内勤や営業職との移動は可能だ。営業では実績が上がらなくとも内勤事務でかなりの成果を挙げる社員も居る。勿論其の反対もある。

新卒入社後一年間はビジネス常識とマナーが40%、初歩的な業務知識が60%であるが、基本的に社外講師が担当し、一応ビジネス戦線に出して恥ずかしくないスキルを目指している。その後は先輩社員が各レベルに応じて講師役を勤めることになっている。中途入社の社員は其の経験や業務レベルに応じて3~6ヶ月で同様なスケジュールで行っている。

 新卒は当社では大手新聞社のコラム欄の筆記を毎日課していたが今年に入って中断している。新聞のコラムは其の新聞社の中で文章力がある記者が書いているので、短文ではあるがエスプリの聞いた「山椒は小粒でもピリッと辛い」文章を学ぶことができる。それも毎日30分くらいの時間を割けば可能なので、強制的に3年間実施した。「習うより、慣れろ」で半強制的に課していた。しかし結果的に思いつきで指示していたため、上司に大きな負荷をかけてしまい日常業務に支障をきたすようになった。先輩に当たる3~4年生も其の意義を理解していないために配慮が欠け、新入生にも大きな負荷をかけてしまった。いずれ再開を期しているが、当社のキャリアプランとの整合性と位置づけを明確にしたいと考えている。

優秀な学生は何処の企業でも引くてあまただ。勿論その学生と実社会に入ってからの業績とは連動しないが、初期レベルの導入教育での理解度や一般教養での落差は如何ともしがたい。その点から各一流企業が大学レベルで応募の足切りをするのも理解できる。

しかし創立以来26年たつが、本人のモチベーション(向上心や熱意)や性格が成長には大きく影響している。かえって「お受験秀才で偏差値が高い大学」より、偏差値が低くともモチベーションが高く性格が真面目な学生のほうが入社後の期待値は大きい。いわゆる一流大学出身ではないが、地頭が良く真面目な学生が有望株だ。これを学門的見地から裏付ける見解もある。

2000年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のJ・ヘックマン教授らによると、「認知能力:ペーパーテストで測れる能力」よりも「非認知能力:テストなどで図れない能力で個人的形質と関係」を向上させる事で、その後の人生に大きなプラスの影響を与える事を強調している。性格スキル(非認知能力)のビックファイブは「真面目さ、開放性、外向性、協調性、精神的安定性」だが、仕事の成果と最も強い関係があるのは「真面目さ」である。其の強さは知能指数の半分程度で、IQの重要性は仕事が複雑になればなるほど増すが、真面目さの重要性は仕事の複雑さとはあまり関係なく、より広範な仕事に対して有用だと指摘している。更に其の非認知スキルは認知スキルに比べて、後年でも伸びしろがあるので、青年時の矯正は非認知スキル(性格スキル)に集中すべきだと主張している。

其の観点から言えば、採用後の社員教育の重要性は大きいと言わざるを得ないが限界もある。企業の性質から言って認知能力に重点を置かざるを得ない。しかし彼らは勉強癖がついていないので社内で奨励する各種資格試験には中々合格しない。特に長文に慣れ親しんでいないからその手の知識習得が必要な試験参考書には触ろうともしない。その点、いわゆるブランド有名校出身者は、受験に鍛えられているから拒絶反応はない。また「疑問点をそのままにしない」共通するものがある。だから初期教育での知識習得も早いし、ある一定レベル迄の到達も早いので、入社2~3年では「やはり●●大学出身者は違うな」という評価が出てくる。

そうだとしても偏差値や学歴は、育った家庭環境が大きく影響しているので、知識取得させるために入社後勉強癖をつければ意外といい成果が出る。砂地が水を吸い込むように其のキャパシティーは大きい。だが、ハズレや失敗も無視できない。当社でもある大学新卒を採用したケースである。

彼は、中学高校と陸上部一筋で大学もスポーツ推薦で入学したが、4年の12月まで就職活動ができないほど練習漬けの毎日だった。当然就職活動も1月からとなり、就職浪人に一歩手前で当社に応募してきた。常識テストは話にならない結果で、本当に大学卒か疑うレベルだったが、本人の熱意と陸上一筋できた経緯を買い、通常採用ではなく新卒には珍しい「契約社員」として一年間様子を見ることで採用した。そこで例の「新聞コラム」の筆記をさせ、ビジネスマナー研修にも参加させたが、結果的に当社では業務の内容から契約更新は無理ということになった。しかし採用責任は逃れないと考え、新卒効果があるうちに転職させた方が本人の為と考えた。本人にその理由と人生設計を提示したところ快諾した。そこで彼の所属チームで転職プロジェクトを作り、就活の基礎である「面接の仕方」「応募の理由」「退職した理由」の模範解答を毎日就業時間後に2ヶ月特訓した。しかも本人の適性を見て 「定型的、継続的な仕事」が最適と判断して当該業種の中から、3社を受験させ面接にも当社社員が同行した。結果一社から合格の通知をもらった時は欣喜雀躍して喜んだ。それは当社より大きな有名企業だったから喜びもひとしおだった。まさに自分の息子が合格したような不思議な光景だった。一中小企業でそこまでするかというレベルだが当社では新卒にはそれだけ採用責任が課せられていると考えている。それが一年間でもご子息を預かった当社の責任と考えている。勿論大手企業のような計画を持ち潤沢な資金での新卒育成はできないが、家庭的な雰囲気の中で「厳しいけど楽しい会社」を目指している。本人の向上心と姿勢があれば何処でも通用できる社員にする事はできる。そして適性がないものには早めに卒業してもらい新たなチャレンジを試みてもらう事も必要だろう。2年後に彼から「エリア副主任になった」との報告を受けた。

社長   三戸部 啓之