220号-2015.11.25

[ 2015.11.25. ]

220号-2015.11.25

 コミュニケーションの重要さは何時でも何処でも言われている。組織を維持し、ベクトルを一致させる為にもコミュニケーションは重要な要素に成っている。
人間関係を円滑なものにする為にも欠かせない。「伝える」事がポイントだが、相手が理解していなくては何にもならない。理解しているとは相手が了知していることが条件だ。了知しているとは、相手が判断権限を持っている人である事が必要だ。往々にして「誰それに話した」が多く「権限のある相手が理解した」かどうかは未確認のことが多い。本人もそれで事足りると思っている。

この段階では相手とコミュニケーションが取れているとはいえない。コミュニケーションが取れているとは、言外にある意味も理解できているレベルの状態にある事を言う。これには相当な深入りで常日頃接触していないと難しいし、相手の性格も熟知している事が必要だ。それが「対話をしている」事になる。
通常は話したレベルで終わっているので、その人なりの人間性の把握や信頼関係を得るまでは行かない。「あの人はこう言っているが、本来の意味はこういうことだよ!」位のレベルまで行けば其の関係は磐石だといえる。

正確に伝えることは意外と難しい。正確に伝えても中間に人が介する事や知的経年劣化もあり、情報は経時的にも変容する。前提事実が変化すれば当然だ。だからコミュニケーション手段を沢山持つ社員は齟齬(そご)もないしクレームも少ない。書面に残す、結論を繰り返す、理解を増す為に図を駆使し、日付を入れる、立会い者を入れる等々だ。こういうインテリジェンスに優れた社員は、常に挙証責任を意識しているから顧客とのトラブルも少ないし、信用を得る事になる。そして反応も早いから評価も高い「できる社員だ!」となる。顧客も安心して付き合えるから、顧客からの紹介も多くなる。社内はもとより社外に対してもこの拙劣さ如何が、結果に大きく響く。

こんな事例が最近あった。
Ⅰ. 当社が管理している駐車場で、契約者が境のフェンスに車をぶつけ基礎のブロックの一部を毀損した。 
早速当社の担当者が現場に駆けつけ、毀損の状況から概算の費用(130,000円)をだし、契約者に連絡してその場は終了した。その後、契約者本人から会社に以下のような電話があった。
ブロックの毀損状況から見てどうしてそんなにかかるのか? 施工方法を知りたい!
ここで問題なのは、その契約者は「主権者:判断する権限がある人」であったかドウかを確認していなかった点にある。夫人が承諾したように見えても、ご主人が承諾したとは言えないからである。又其の反対もある。建築工事は素人が考えるよりも多工程が入り、思ったより費用が高くなることが多い。

建築業界の常識では10万前後の工事見積もりはせいぜい工事内容2~3項目で後は諸経費一式で終わる。図面でも添付してあるのは例外に属する。建築会社は工事単価を10万円単位で考えるが、消費者は1,000円単位だという事も忘れてはならない。費用の判断の尺度が100倍の差があるという事だ。さらに業者間では当たり前の用語や作業工程が消費者は理解できない。だから、第三者が見ても理解できるように図式化し、内容を具体的に記載し、書面で渡す必要がある。後日「言った、言わない!」で不要な誤解を作る事もなくなるし、かえって丁寧な担当者だと好印象に成る。コミュニーションは言葉だけではなく様々なツールを使う事が必要だ。相手に理解してもらわなければ意味が無いからだ。処理能力が遅い社員、クレームが多い社員、顧客から信用を得られない社員はこの辺の基本動作ができていない事が多い。

またこんな事例もあった。
Ⅱ. 「水栓から水が漏れているので至急直してほしい!」との連絡がアフター受付部署から電話で担当者に入った。ちょうど近くに巡回していた担当者が急行し、劣化していた水栓のコマを交換し、シールでパッキンを補修し修理を完了した。現場に立ち会ったのは入居者の夫人で、「概算工事費3,000円の請求書を後日会社より送付しますので振込してください」と話したところ、振込手数料がもったいないので、ここで支払いを済ませたいという事であった。担当者からすれば、3,000円の支払いの為に432円の振込料の負担は大きいと考えた。その場で修理代金を受領し、名刺に領収金額を記載し相手に渡した。

良く起きそうな事例だが、当社では領収書持参時以外は原則禁止になっており、改めて振込していただくようになっている。この辺のご理解を得る事も大事な仕事になる。担当者からすれば、顧客の立場を考慮して対処したのだと反論するかもしれないが、サービスを受ける側が自己負担するのがビジネスの常識だ。こと金銭に絡むものはこの位の厳しさが必要だし、事故防止にもつながる。自社の原則をキチンと説明し納得していただく事も必要だ。

 信じられないような話だが、こんな事例もある。
Ⅲ. アフター担当が退去精算にあたりオーナー負担分が発生した。この物件はオーナー側の事情で当社との管理契約を解約することになっていた。当然当社が預かっていた敷金の返還が発生するが、先の退去時の原状回復費用の一部負担が残っていた為、アフター担当としてはその負担分と相殺するか、別途支払っていただくか明確にせず2ヶ月放置していた。返金額と負担額が同一なので安易に考えていた節があるが、経理の常識から言えば夫々売掛金、支払い予定として未処理になっている。オーナー担当である顧客サポートの社員がこのオーナーより敷金の返還に催促を受け、この事実が判明した。
毎月アフター・退去精算会議で個別にチェックしているが、なぜかこのケースはスルーしていた。

これも「退去精算:敷金精算」が別々に処理をするのではなく、退去時に相殺するか剰余分を返還するかどうかをその場で確認すれば済む事だ。社内的にも担当は経理・管理・アフターと3部門に渡るが、書式と業務が連動しているのに、確認ミスで却って顧客に不信感をもたれてしまった。組織で仕事をしている以上、他部門とのすり合わせはミスや効率を図る上で不可欠だが、組織という見えない壁が、様々なミスやトラブルの源泉になっている。これは企業の大小を問わず乗りこえなければならない課題だ。

関連する話題として、2006年バンダイとナムコの経営統合で生まれた東京品川の「バンダイナムコゲームズ」の本社では、2009年から社内旅行、2013年から誕生会を始めた。統合会社でありがちな出身者同士で打ち解けにくい状況が続き、其の壁を取り払う仕掛けが各種のイベントだ。

バブル崩壊後、成果主義の導入やメールの普及に伴い、社員と会社の関係もドライになった。面倒な人間関係から解放された半面、ギスギスした「不機嫌な職場」が増えた。分業化が進み自分の業務に没頭する同僚たち、顧客の声が伝わらずにクレームになったケースも多くなった。自分の結果を出すことに全力を注ぎ、家族主義はもう古いといった常識を覆す取り組みが広がってきた。「会社で過ごす時間は長い、楽しい会社にしたい」との考え方をする社員も増えてきた。

働き方の多様化が進む日本の職場。非正規社員の割合は38%と25年前より倍増した。世代により就労感も様々、国際化で外国人も加わる。最近では育児や介護で時間に制約がある社員も増えてきた。もはや、「私生活に立ち入らない」という常識では職場が回らない。一見すると非効率に見える密なコミュニケーションこそが組織運営の鍵を握る。たかがコミュニケーション、されどコミュニケーションなのだ! 経営側が意識すべきは「ほう・れん・そう」が円滑にできる環境作りかもしれない。

                       社長 三戸部 啓之