186号-2013.1.25

[ 2013.3.1. ]

186号-2013.1.25

SE005今年は「巳年」である。
これは「止む」の意味もあり、「草木の成長が極限に達した状態を表している」とされるらしい。
前年が「辰年」なので、順調に成長している企業は注意しなくてはならないし、低迷している企業は今年から上昇に転ずるかもしれない節目となる重要な年であるともいえる。
しかし待っているだけでは好機は訪れない。準備と決断が必要だ。
中小企業金融円滑化法の今年3月の期限満了を受け資金繰り悪化による倒産企業の増加、消費税増税による消費低迷、円高進行と物価下落傾向は依然として根強い。更に少子化と雇用の空洞化は景気浮揚の阻害要因となり劇的な企業経営の転換点(ターンアランド)となる外部要因は見当たらない。

日本経済の景気低迷を様々な角度から分析指摘している多くの学者や経済評論家に共通している点は、かっての「成功体験からの脱却」である。終身雇用制度、企業内労働組合、護送船団方式をいうが、最近は「企業統治(ガバナンス)」が加わった。「後出しジャンケン」のように理由はいくらでも見つけられるが、どれも有効な処方箋には至っていない。一時「GMモデル」と企業統治のお手本とされたゼネラルモーターズ(GM)が米国の製造業で史上最大の経営破綻となり、反対に家族経営に徹したフォードの長期的視点での企業経営が見直されたりした。わが国でも「執行役員制度」を最初に導入したソニーが「取締役会」の機能不全、競争戦略上の迷走を引き起こし、画期的な新商品を生み出せず業績は周知のように依然低迷している。また日本企業の経営者の間には「リスクを取らないリスク」が相当高まっている事も指摘された。ドラッカーも言うように「企業経営上の競争力の向上を可能にするのは、自社の強みを冷静に見え据えつつリスクを取る、積極的に投資する」事である。

波涛に翻弄される木の葉のような我々中小企業では尚更だ。しかし経営資源は殆どなく、失敗が許されないから大手企業以上のリスクのタイトロープを渡らなくてはいけない。
しかも身の丈に合ったリスクしか取れないし、逆転ホームランは絶対にありえない。投資先もリバレッジの利く借金経営ではなく、人的投資、社員に対する教育投資に限定される。幸運もあるが、それが創立25年経った当社の知恵ともいえる。
その観点から、昨年当社に起こった重要な出来事を5つ取り上げ本年度の年頭言としたい。

① 更新料有効判決(詳細は社長の独り言177号)
平成13年4月の消費者契約法の施行から始まった絶対的消費者(借主)保護の流れは、平成21年8月消費者庁創設により加速され、また平成19年より導入が始まった消費者団体訴訟制度は当初請求内容が違法な勧誘等の差し止めに限られていたが、平成19年6月の消費者契約法改正により賃貸契約条項まで介入するようになった。それと並行して長年の慣行であった更新料条項を奇禍としてマスコミを上げて糾弾し提訴も多発した。しかし平成23年7月の最高裁判決の更新料有効判決で、消費者保護の行き過ぎに一定の歯止めがかかった。
弊社でも係争中の更新料返還訴訟が昨年2月に横浜地裁で勝訴したが、乱訴時代の幕開けは間違いがない。

② センター北店の出店
社長の独り言(183号)にも書いたが、当社の本意に反して「港北高田店」を閉鎖し「センター北店」に移転した。この移転自体は当社の営業政策にも基づいており早晩移転にはなったが、時期が早まった点である。この経緯は省略するが、貸主側の新規事業や運転資金に対する金融機関の不動産担保の下落が売り上げの下落と相回り、新規借り入れストップにより破綻した事例である。これはデフレ経済下の中小企業一般の事例で「運転資金の枯渇⇒運転資金の融資ストップ⇒倒産」と決して特異な事例ではない。ただもっと早ければより有利な解決策はあったかもしれない。

③ 賃貸管理業者登録(詳細は社長の独り言185号)
国交省の肝いりで、法改正を視野に入れた動きだったが、結果的に任意登録制度に落ち着いた。
当社でも「アーバン企画開発管理」と関連会社を設立し登録したが、予想に反し全国で2335社(2012年10月現在)と不動産会社の1.5%に過ぎなかった。神奈川県内の当社エリアでも46社と少なく、本社のある麻生区では不動産業者約100社の内、登録業者ゼロとなった。特にメリットも少ない代わりに、業務報告や重要事項説明が義務つけられたため事務負担や人的負担の増加が忌避されたのだろう。加えて違反者には登録抹消、公告となれば、強制ではない限り自ら進んで登録する業者はない事は当初から予想
された事ではあった。

しかし、一部の登録した不動産業者のように前向きにとらえ、本格的な賃貸住宅管理業へと自社の組織や体質改善のステップと考えた業者もいたはずである。消費者動向からも従来法的規制外にあった賃貸住宅管理会社に対する業務の明朗化は時代の要請である。いずれ規制対象になる事は間違いがなくその準備期間とみて対応するのが、賃貸住宅管理業者を標榜する責務であろう。

④ リノリース課の新設
空室期間の長期化は一般化しており、オーナーの賃貸経営維持の大きな問題になっている。
賃料の下落傾向は依然続いており、入居時に要する契約金も礼金は勿論、敷金すらなくなる方向にある。そこで一つの切り札として、賃料を値下げせず、賃料アップも図れる「リノリース」が登場した。これは「室内のリノベーション」と「経費の一括償却のメリット」を合わせ持った画期的商品である。もちろん当社で特約店契約を締結し、長期空室オーナーに提案中である。
空室対策の終局的切り札は賃料減額だが、他の入居者とのバランスから困難な場合に有効である。
それに節税上のメリットも大きく選択肢は増え、様々な提案が可能になる。

⑤ 登戸店の出店
従来、百合ヶ丘店の階下を賃借していたが、オーナー側が使用する事になり急遽明け渡すことになった。オーナー側の開業の日程もありアタフタと移転場所を探していたが、幸いにも、貸主側とその物件を管理していた不動産業者の好意で、将来新設を予定していた「登戸・向ヶ丘遊園」に見つける事が出来た。しかし営業店舗としては立地的に難しいため、当面経理部門と管理部門のみを移転し一部本社機能を持たせた。来年にかけて営業店舗を別に開設し、比較的弱かった多摩地区の賃貸仲介に本格的に参入していく予定であり、その為の準備店舗としての意味もある為、管理受託要員を一名駐在させている。

以上から見て当社のエリアでも一つの傾向がみられ自社の課題としたい。
賃貸物件管理の質と賃貸仲介力のアップがなければ貸主オーナーからは早晩切り捨てられる点である。①の更新料訴訟では当社社員の初期対応のまずさが長期化の原因だし、②⑤は直接の原因は貸主側にあるが、「法的スキル」「マーケッティングスキル」「物件把握力」があればより突っ込んだ提案サービスが可能だった。③は登録制度を契機に社内体制の整備が急務で、賃料管理、入居者管理、レポーティング、建物診断、保守がより貸主、消費者に評価される必要がある。④は貸主が直接的に求めているのは、仲介会社の長期空室理由や弁解ではなく、「早期入居」の実践である。「安心して任せられる」「貸主の気持ちになって考え行動してくれる」賃貸管理会社しか不要だという事である。昨今の景気低迷下では厳しい要求であるが、今年は社員一人一人がそれを業務に体現しなくてはならない。往々にして自己の逃げ道を作り、蚊帳の外にいる事は絶対に当社では許されない事を明記すべきだ。厳しい年も心がけと努力次第で楽しい年にもなる。
                                                        社長 三戸部 啓之