187号-2013.2.25

[ 2013.3.1. ]

187号-2013.2.25

AJ007「部下に任せる」とはどういうことか。
「ほう・れん・そう」の報告とはどういうことか。
こういう例があった。
ある当社の営業社員の態度が不評だった。相手から見ればふんぞり返って見えたようだ。横柄に見えたのだ。本人は意識してやっている訳ではない。話の最中に「椅子にふんぞり返っている」ような印象があったらしい、しかも、入居者からの「お願い事」を聞いているシーンでもあったから尚更だ。通常、頼みごとをしている時は姿勢が前かがみになり、反対に頼みごとを聞く場合は、ふんぞり返る姿勢になる。心理的にも頼むときは相手との距離を縮める方が効果的だし、頼まれるときは本能的に避けようとするからだ。
その後、その入居者からのクレーム電話で営業が対応の顛末を「お詫び」に言ったが、その上司への報告は「心配したほどのことではなかった」「相手は別に問題にはしていなかった」だった。本来ならそれで一件落着になる。それが「顧客志向」を声高に叫んでいる会社の実態であろう。つまり、その程度のクレームでも「一応クレーム先に」お詫びに行ったからだ。

殆どの企業は、その場合担当者に経緯を確認し、「今度気をつけろよ」と「口頭注意」で終わる。もし、「あの入居者は滞納気味だし、周りからもクレームが多くだらしない入居者だからな」と言ったならその上司はどんな綺麗ごとを言っても、顧客志向を考えている企業の管理職からは程遠いだろう。

だがここに隠れた大きな問題がある。上司は「部下の言う言葉を鵜呑みにしていないか」という事である。「わざわざ、お金をかけて電話でクレームを言ってきた」点を過小評価している。この手のクレームは時間が経過すれば、気分も落ち着き「まあ、いいや」と鎮静化する。相手も実害がないからなのだが、心ある管理職はのちに大きな火種を抱えたと考えるべきなのだ。
つまり、人間の感情というものは「損害・被害」については「利益・加害」よりも5倍の影響があると心理学的にも実証されているからだ。本人にはたいした事がなくても、相手にとってはたいした事になっているのだ。我々の業務に置き換えれば、退去時精算トラブル、賃料支払の遅延、更新契約遅延と不要不急なクレーム等嫌がらせを受ける事にもなりかねない。

勿論人柄にもよるが、「江戸の敵は長崎で」となる。勿論そこまでいかなくても、当社が顧客評価の重点項目としている、「入居者からの情報提供、紹介」が期待できない。
当社にとっては、何気ない担当の仕草が、顧客満足度を下げアフターセールスに支障をきたしていることになる。つまり、外部不経済性の問題だ。経済の合理性を考える従来の経済学は、外部性問題の登場によって修正を余儀なくされ、外部不経済を出す経済活動は、その分を自ら負担することが求められるようになった。この事例に置き換えれば賃貸借契約における当事者だけの問題ではなく、そのマイナス効果は周りに及び、起こした企業に跳ね返ってくることになる。

「報告」は事実のみを伝えなくてはならない、表情の変化、仕草、周りの雰囲気、言葉遣いや態度を見たままに報告しなくてはならない。往々にして「担当者の意見や評価」が入っている事だ。それでは管理職は正確な判断ができない。
軍隊では、この点を徹底的に仕込まれる。上官の判断が生死を決するからだ。
敵情視察は通常、下士官と兵が行うが、場合によっては少尉クラスの将校斥候も実施される。これほど現場の状況認識は重要なことなのだ。どこでも「報告」ができれば一人前に扱われる。更に加えれば、報告する側は管理職が正確に判断ができるよう、材料をすべて確認しておかなくてはならないし、冷静な事実把握、調査能力、選択能力も必要になる。

先のクレームは、やはり「相当気分を壊しており」社長と責任者が禮を尽くして訪問したことでやっと前のフレンドリーな関係になった。
そこまでしてやっと出発点に戻っただけで、当社を評価するまでは至っていない事を肝に銘じる必要がある。労力と時間をかけて振出しに戻ったことになる。
態度次第で顧客の評価はいかようにもなってしまい、サービスに携わる社員は何時も心しなくてはならないし、上司は勿論、同僚も当の社員に適宜注意するべきなのだ。往々にしてこれをキチンとできる会社組織は少ない。特に営業成績や社内競争をあおるような企業では、他人の失点が自己の得点につながるから不可能に近い。顧客志向と競争原理はどんな理屈をつけても詭弁に過ぎない。一時マスコミの寵児となった企業も例外ではない。

要はバランス感覚なのだが、企業の進化の過程で力点を考えるもので正解は一つではない。
「部下に任せる」点も教訓にするべきだ。
組織的な動きをしている以上、日常業務でも様々な案件がある。
つまり、組織の宿命として「トップの求めている成果」をそのチームが実現しなくてはならない。チームのリーダーはそのコーディネーターに徹しなくてはならないし、組織のパフォーマンスを最大限発揮させなくてはいけない。その一部を任された部下は、リーダーと同じ成果を要求される。だから部下は時系列的に「報告・連絡・相談」をして、常に軌道修正を図り、最善の成果を出す責務がある。
任せたリーダーも当然、逐一進捗状況を把握する必要がある。つまり、任せっぱなしにしてはいけない事になる。部下に任せる事は自分以上に気を使うしストレスも多い。よく全部一人で抱え込むリーダーがいるが、それは担当者のレベルであって組織のパフォーマンスを要求されるリーダーの仕事ではない。
小職の前職の会社で、担当役員から注意されたことが思い出される。

その役員は、「君は営業マンとしては合格点だ、しかし、君がいかに優秀だとしても一人で月受注100億はできないだろう。しかしチームならできる。そのチームをマネージする事が管理職だ」と痛烈に叱責された。ソコソコの実績を上げて調子に乗っていた時期でもあり、受注が取れない部下を罵倒していたこともあったので、思い上がりの会社人生をすべて否定されたようだった。社員教育の重要性を改めて認識した。

それから35年、何回も門松をくぐった割には、これといった妙策は見つけられないでいる。
ビジネス書や経営学書とあらゆる書籍を読み漁った。500冊は優に超えたろう。セミナーも何回となく行った。自信ありげな講師のアドバイスもあった。
しかし正解は見いだせない。ただ、一つ、「相手に感謝する」気持ちを持ち続ければ、いつか気持ちが通じる事は間違いなく、体に染みついた。こちらに優越な地位があっても相手に感謝する気持ちがあれば、効果が倍する点は経験上確信できる。「史上最高のセミナー」という本に「アメリカで失敗するビジネスの70%が、購入してくれた顧客への無関心が原因でそうなった。ビジネスは品質の悪さや、お粗末なサービスで失われるのではない。顧客を無視したせいで失われる」とある。夫婦関係でも同じだ。相手に関心を持たなくなった時は崩壊も間近かい。
                                                          社長 三戸部 啓之