社長の独り言

社長の独り言

[ 2018.7.1. ]

252号-2018.7.25

プロは自分の道具にこだわる。自分の分身のように神経質だ。当たり前だが商売道具でもあり、それで自分の年収や評価が決まってしまう。野球選手もバットやグラブにこだわる。

元々、イチローのグラブは、ミズノ・テクニクスのグラブマイスターである岸本耕作氏の先輩で「名人」と呼ばれる坪田信義氏という人が作っていた。70歳を過ぎたので岸本氏にその大役が回って来たが、妥協を一切許さないイチローだけにその要求水準は高く、他に類例がないくらい厳しかったらしい。

 

 

岸本氏が坪田名人の仕様書を元に何個も何個もグラブを作っても、一回はめただけで首をかしげ、「ストレスを感じます」などと言うばかりで一向に受け取ってもらえなかったらしい。

 

挙句の果てには、「坪田名人にまた作って欲しい」という連絡が届く始末で、岸本氏もそれまでに名手と呼ばれた選手のグラブを数多く手掛けてきたが、ここまで拒絶されたのは初めてだったそうだ。また改めて、「ただ仕様書通りに作れば済むものではない!」という事を思い知らされた。

その後、何度も何度も試作品を作り直し、岸本氏の作ったグラブをイチローが受け取ってくれたのは、初めてグラブを届けてから1年後の2007年だったという。

岸本氏曰く、グラブ作りの胆は、「選手と同じ手の感覚をもつこと」だそうだが、我々素人では全く理解できないし、親子以上のレベルにまでイチローのことを知り尽くさないと言えないセリフだ。当然今でも米国のキャンプ地まで出かけイチローからグラブの様子を聞いてフォローしている。

このように、「仕様書通りでは済まない」事がビジネスでも多々ある。我々の業務ではマニュアルと言い換えてもいい。その為には相手のことをトコトン知る必要がある。過去の事例や他社との条件を参考にすることはあっても、それをそのまま持ってきては相手に受け入れられないことも多い。まさに、「ピンとこない」と言われてしまう事もある。まずは相手のことを徹底的に知った上で、その相手と自分との最適な形を模索するという姿勢がどうしても求められる。仕様書(マニュアル)はある時点での到達点で、場所と時が変われば見直しが必要となる。

こんな失敗が当社であった。家賃査定のプレゼンテーションで、図面と仕様書だけで判断し査定したことがあった。勿論建築前だから図面でしか判断できないわけだが、貸主との話の中で「なぜその間取りなのか」「なぜその設備なのか」「なぜその色なのか」「それを決めたのは誰なのか」という点を確認しなかった。後から考えれば、建築する以上「様々な処でこだわり」があるはずだったが、その肝心な点を見逃してしまった。貸主は競争市場の中で最適解をだしているし、差別化をしているはずだった。その意を汲まず通常の感覚で査定してしまったわけである。家賃という価格面だけで決めてしまった。勿論家賃は入居者にとり重要なファクターではあるが、不動産という特殊性を勘案すれば差別化要素は相当ある事になる。それらを一つずつ丁寧にピックアップし、価格に置き換え、貸主納得の上で考えなければならないはずである。マニュアルや仕様書通りに進めても顧客の納得は得られない。かえって押し付けられたとの印象になってしまうし、この思い(こだわり)を理解してくれない会社だとの判断をされてしまう。この丁寧な対応がプロとしての矜持と姿勢なのだ。

だから効率的だとか言って済まそうと考えていると却って効率が悪く、時間も倍かかってしまうし、最悪の場合、取引中止になってしまう。だからこそ、「仕様書通りでは済まない」相手のことを知る必要があるという覚悟で臨む必要がある。相手の事を知るという事は共同作業が可能だという事でもある。つまり、パートナーとして運命共同体になると言う事でもある。

相手を理解するにはあらゆる手段を使って「会話をする」ことである。判断の根拠となる情報を全て入手する事である。話すことにより誤解も解けるし当事者から思いもよらないアイディアが出るかもしれない。時間はかかるが成果に対する納得感が違う。このひと手間を惜しんではならない。会話をすることで潜在意識も顕在化する。

脳科学の本などに、「脳にはできるだけラクをしたがる性質がある」というようなことが書かれている。私達はビジネスでもプライべートでも合理的な判断ができるように脳を使って考えなければいけない。

でも脳はそれを好まず、放っておくと、考えなくてもラクする方法を自然に探してしまうらしい。そのクセ、「考えたくないけど、間違えるのもイヤ!」と虫のいいことも思ったりもする。その結果、先輩に言われたことや前例を鵜呑みにしてそのまま実行してしまったりする。

よく、「人は自分では決めたくない生き物だ」ということが言われるが、これも結局は「考えるのがイヤ!」という脳の性質によるものだ。官僚の前例踏襲型等は最たる例になる。
このように、「考えたくないけど、間違えるのもイヤ!」と思ってしまう人間の脳の働きは、プレゼンテーションを準備するときにも顕著に現れる。リスクを本能的に回避する。成功体験神話である。

よくネットから雛形をダウンロードしたり他人が締結したプレゼンを社名だけ変えて使ったりするのはその典型的な例だ。「雛形さえ手に入ればあまり考えることもなく、かつそんなに大きく間違えることもないでしょう?」と思う方が多いが、大きく間違えることはよくある。

例えば、世の中のプレゼンテーションは大抵、提案者側に都合の良いように作ってある。そしてそれは、パッと見ただけではわからない。提案者側にメリットがあるからこそプレゼンをするのであって、一見相手側にすべての恩恵があるわけではない。有利性を強調しリスクを最小限に説明する。手間をかけず成果を最大限にする。だからやはり、脳の働きに逆らってでも各ポイントについて一つ一つ考えていくしかない。実を言うと、怠け者の脳でもこれをすると、自動的に考え始めてしまうという性質があるらしい。それは、質問されると解答を探さずにはいられない!という性質だ。だから、各ポイントについて質問リストを用意して自分に質問してみれば良い。自分で質問を考えられなければ、他人から質問してもらうと、もっと効果がある。

当社では家賃査定の前に仲介担当者、受託担当者、ネット担当者が集まり、その物件のセールスポイント、マイナスポイント、競合物件のとの差別化要因を打ち合わせする事になっている。
そこで受託担当者がロールプレイをする。他の担当者からの質問を受ける。その手順を踏まえる事で商品知識が身に付き他社の動向にも気を配る事ができるようになる。自信をもって応対する事ができる。

昨今の賃貸市場は、まずネット掲載からの反響をいかに多くするかがポイントになる。その為に先の商品知識がポイントになる。自分が当事者になる事により入居者の目線で物件を見ることができる。キャッチコピーの拙劣さ、表現の仕方、画像の掲載方法等あらゆる角度から点検できる。

我々、管理業者にとっては「物件を磨く」ことがすべての出発点である。往々にしてマニュアルに頼った営業方法に慣れていると、賃貸条件の見直しという安易な方法を取ってしまう。最悪なのは客付仲介業者に販促費というインセンティブを数ヶ月と当たり前のように支払ってしまい、思考停止状態が常態化する。だから賃貸仲介では組織の若返りは必須である。若い頭で汗をかいている事が必要だ!しかし、最近の若者は年齢と頭脳行動は反比例しているのが懸念される。

                                                                                                                 社長   三戸部 啓之  

不動産活用レポート

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