261号-2019.4.25

[ 2019.4.1. ]

261号-2019.4.25

員の定着率が問題となっている。弊社でも以前、中堅の女子社員が3名同時に退職した。3人とも事務的能力は優秀だったし、年代もほぼ同じなので仲良し三人組とでもいえる間柄でもあった。将来の幹部候補生としてみていただけに残念だった。


当社でも「28歳の壁」というものがある。独身女子社員の場合、結婚を契機にした寿退社か、未婚の場合はこのままでいいのか?という現在の仕事や、これからのキャリア形成に対する不安が出てくる。
理由はともかく事務職で経験5・6年という一番油の乗り切った時期に退職されるのは、中小企業では本当に痛い。思い起こせば部署替えと仕事の負荷が大きな原因とみている。

 

定期的に新卒は入社3ヶ月、6ヶ月、1年、3年、中途は入社1年、3年で社長面談を実施し、ヒアリングするようになっている。そこで現在の業務の内容、負荷、改善点、課題を共有し、部署替え等適性を見て適宜異動させている。そのくらい時間と回数をかければ異動や部署替えにも納得する事が出来ると考えた。勿論、中堅社員はそれなりの課題を達成してもらう事が必要だし、次のステップに挑戦してもらう事も必要になってくる。リーダーとしての期待と役割を担ってもらう事になる。

特に店舗などの前線勤務の事務部門は後方勤務の事務部門とは、そのかかる負荷は数倍に近いと思われる。しかし、後方部門に長くいるとどうしても前線に行くことを拒絶する事が多い。
どういう事かというと、店舗などの前線は顧客と直に対面し直接説明しなければならないし、クレームも直に受けざるを得ない。更に月末の締めという事があり必然的に意に反する残業が多くなる。
反対に後方部門は電話での対応がすべてであり、電話を他部署に振るとかで逃げが効くし、ある程度自分の都合で仕事ができ、意に反する残業も少ないからだ。
その辺の諸事情を勘案すると同じ給与で「シンドイ」仕事は割に合わないという判断になる。
そこで、繁忙期には前線勤務の事務職員に繁忙手当として月額1万円を支給する事にした。
当社の育成システムとして、中堅社員には管理職予備軍として経験を積ませる為に、営業主任は2~3名の部下を持たせることにしており、事務職員はパートを入れ3~5名を持つ事になる。役職は人を作るというが、今回はその適性を見誤ったことで失敗につながった。個人では優秀だが管理職としては難しかったし、本人にその気もなかった事が大きい。

どうしても一部署に長くいると仕事が属人化しやすく、「お局さま」を作りやすい。その為に、従来から抵抗があった女子事務社員の配置換えを前期強行した。結果はある程度予想されたし、その兆候もあった。しかし、ここで英断しないと人事の停滞を是認する事になる。多少の負荷は本人にとりあるだろうが、彼女らの伸びしろを考えれば断行するべきと判断した。言い古された言葉で恐縮だが、「鬼手仏心:きしゅ・ぶっしん」の境地にもなる。相手への傾聴も大事だが、ここぞと言う時は仏の心で相手を思うがゆえに、あえて鬼のようにふるまうと言う意味だ。ちょっと大げさかもしれないので、「親の心、子知らず」とでもいおうか。中小企業の経営者は多かれ少なかれこの感覚がある。家族主義的経営は今の若い社員達には「うざったい」かもしれないし、不合理な処も否定はしない。同じ船の漕ぎ手として力を合わせようという意識は強い。ましてこの人材不足の時代なら尚更だ。大企業のサラリーマン経営者なら、任期中大過なく過ごせば良しとするが、我々中小企業はそうはいかない。何をやるにも命がけだという事だ!大企業のサラリーマン社長なら自分の資産迄なくなる事はないが、我々中小企業の経営者は、倒産は明日から無一文で露頭に迷う事を意味する。

バブルがはじけた時に名門大手銀行に対して「大きすぎてつぶせない」という理由で国民の血税を投入して救済措置を取ったこともあった。そのトップの経営責任も問われることはなかったし、高額な退職金をもらったケースもあった。我々中小企業にはそんな救済は絶対にありえない。タイトロープを渡るようなものだ。すべての決定と行動が自己責任の世界なのだ。その実現性を担う社員こそ大事にするのは大企業の比ではない。あらん限りの経営資源を投入し、社員教育に、職場環境に配慮している。まさに後方勤務も前線勤務も関係なく総力戦なのだ。持っている武器は貧弱だがフェイス・ツウ・フェイスが売りだ。顧客の信頼を勝ち取るために「経験と知識」が貴重な唯一の武器なのだ。

地域密着とは、まさに我々中小企業の位置づけなのだ。地域密着とは名ばかりの「その地域にあるだけの会社」が多い現状だが、もう一度その意味をかみしめるべきだ。
「逃げない!責任を最後まで負う」「常に先頭に立つ」「顧客に寄り添う」という宿命を持つ企業の事だ。
「地域と共に生き発展する」には社員も中小企業の存在価値を自覚しなくてはいけない。定期的な配転は現場の意見を直接汲み取り、社内にフィードバックする事につながる貴重な経験を積むことになる。血となり肉となる貴重な体験だ。


株式会社武蔵野の小山昇社長は、社員の異動は頻繁に行っていると聞く。業績が悪ければ配転後数ヶ月で異動降格、優秀な社員はそれで鍛えられ15年間の増収増益につながっているらしい。勿論給与もそれに伴い上がったり下がったり、まるでゲーム感覚のような人事だが、中小企業のカリスマ経営者で5000社の指導実績がある「神の声」は大きい。お会いしたことはないが、小山社長の書籍は殆ど読んでいるし、実績に基づいた言辞は説得力がある。まして日本経営品質賞を二度も受賞しているし、発想も独創的だ。「社長のかばん持ち、一日36万円」などその例だ。3日間のパックで108万円、朝6時から自宅に帰るまで小山社長に同行するだけだが、社長の仕草、話し方を学ぶことになる。つまり、武蔵野の「経営の3種の神器」と言われる【1.現場】【2.環境整備】【3.経営計画書】を実地で学ぶわけだ。ここには経営の要諦がすべて凝縮しているが、往々にして地についていない事が多い。その気づき代が一日36万円、一時間当たり4万円になる。これだけの高額な同行代を支払っても、十分にペイできるから、1年先も予約で一杯になる盛況ぶりなのかもしれない。
世の経営者は全て「会社をつぶさないために・・」「会社の業績を伸ばし地域の発展に寄与する」と考えている。その為にも「小山社長のような」教えを請い自社に取り入れようとしているのだ。それを裏付けるように、中小企業の経営者程、読書家が多いと聞く。先行きを考え、「これでいいのか」と日々悩み悶々としているからに違いがない。


先日読んだ本に、年収300万円の人と1億円の人の移動距離についての話があった。それによると、
年収300万円の人⇒ 家と会社の往復が基本的なパターン
年収1億円の人 ⇒ とにかく寄り道する、会いたい人や参加したいイベントがあれば新幹線や飛行機に乗って行く。長い休みが取れれば積極的に国境を越えて旅をするということらしい。

別に300万円の人が悪いとか、家と会社の往復の人生が可哀相だとか言いたい訳ではない。でも移動距離と収入にある程度の相関関係があるそうだ。比較の対象が増えたからではないかと思う。積極的に移動距離を伸ばすことで人は違った価値感、発想、人脈に出会うことができる。そしてそれを、今までの自分の知識と経験と比較できるので、大きなビジネスチャンスを物にできる確率が高まるのではと推測される。つまり配転もそうだが、変化は自分を鍛えるチャンスでもあるという事だ。給与をもらってその変化を与えてもらう、恵まれた立場なのだ!要は全て前向きにとらえることが自己成長につながるという事だ。
                                     

                                                                                                     社長  三戸部 啓之